Don Norman氏
Don Norman氏
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米Apple Inc.(旧名Apple Computer, Inc.)で以前,Vice President of the Advanced Technology Groupを務めたDon Norman氏は,ユーザー・インターフェースおよびデザイン業界で名前が知られている人物である。Norman氏が執筆した「Emotional Design: Why We Love (or Hate) Everyday Things」は,業界に大きな影響を与えた。2010年9月に新刊本「Living with Complexity」を出版する予定の同氏に,iPad登場のインパクトなどを聞いた。(聞き手はPhil Keys=シリコンバレー支局)。

 今後,iPadと類似のタブレット端末が,Apple社以外の企業から何十種類も登場するだろう。
 
 結論から言えば,iPadは出版業界を根本的に変化させる可能性を持っていると思う。ノート・パソコンより軽量で携帯性に優れるし,電子書籍端末として,実質的に初めてカラー液晶ディスプレイを搭載したデバイスだからだ。iPadの登場によって,出版物はテキストや写真など静的な情報の表示だけでなく,動画コンテンツの再生などにも対応する。

 このことは,特に新聞や雑誌に大きな影響を与える。私は,記事中に動画を埋め込んだNew York TimesやWiredなどのiPad向け試作版を見たことがある。広告や教科書などにも影響をもたらすだろう。私が執筆し,以前出版された電子書籍では,テキストから動画がポップ・アップして内容を説明する仕掛けを盛り込んだ。だが,当時はノート・パソコンが重すぎて使い勝手が悪かったし,こうしたコンテンツを扱うための機能的な制限も多すぎた。

 iPadでもう一つ重要なのが,「エンタテインメント・マシーン」として既存のノート・パソコンよりも優れていることだ。例えば,パソコンよりも手軽にさくさく使える。新聞を読んだり,天気予報を確認したり,すぐに返事をするべき電子メールを探したり,といった作業にピッタリだ。私の想像では,レシピを探したりする,優れた「キッチン・コンピュータ」になると思う。

 Apple社は以前から,ユーザーがOSを楽しく操作できるようにすることに,他社よりも腐心している。実際,iPhoneは操作が楽しい最初の携帯電話機だった。Androidもこれを続いた。こうした端末が登場することによって,楽しいアプリが数多く登場した。iPadはこのトレンドを発展させる。例えば,iPad上で動作する音楽アプリ「Magic Piano」の素晴らしい動画が,YouTubeなどで人気だ。この動画では,ある中国人のピアニストがオーケストラと演奏中に,アンコールの場面でiPadをサッと取り出し,iPad上のアプリで「ピアノ演奏」を披露する。

 Android向けのアプリ「Google Sky Map」も本当に素晴らしい。このアプリを搭載した携帯電話機を上に向けると,どの方向に向いているかが検知され,自分が見ている星に関する情報を表示する。こうした分野のアプリなら画面が大きいほど使いやすくなるので,iPadで使い方が楽しいだろう。

 だが, iPadのすべてが良いわけではない。iPadは底面が曲線を描いている。このため,iPadをテーブルに置いてソフトウエア・キーボードでタイプすると,本体が揺れて入力しにくい。また,Apple社は2本や3本の指を使って入力するジェスチャー機能に対応しているが,iPadでは指3本でテキストなどを拡大する機能がある。私の同僚は,これはユーザーにとって使い方が覚えにくいと批判している。私も彼と同感だ。