NECは,インターネット上で違法にアップロードされたコピー動画などを,瞬時に自動検出できるという映像識別技術を開発したと発表した(ニュース・リリース)。オリジナルの動画から映像を識別するための指紋情報(ビデオシグネチャ)を生成し,他の動画と照合する技術である。単にコピーされた動画だけでなく,テロップ挿入やカメラ撮影,アナログ・コピーなどによってデータ改変を伴っている動画でも,高速・高精度に検出可能という。

 同社によれば,現在,違法なコピー動画の流出防止に向けては,目視による確認や,あらかじめコンテンツに埋め込んだ特殊コードをもとにした自動識別(電子透かし),色配置状況等を勘案した類似検索などの方法が利用されている。しかしこれらの方法では,膨大な量のコンテンツの確認や,短く切り出した動画や改変された動画の発見は困難だった。

 一方,今回の技術を用いると,コンテンツ権利者や配信サービス事業者がオリジナルの映像をあらかじめ登録しておけば,違法コピー動画の自動検出や違法アップロードの事前ブロックが可能になる。これで,従来は目視に頼っていたコピー動画の流通監視を自動で行えるようになるため,高精度で大規模な監視が可能になるとする。

家庭用PCで処理可能

 NECは今回の映像識別技術の特徴を四つ挙げている。すなわち,(1)シグネチャを用いて改変動画を識別可能,(2)高い識別率と低い誤検出率を両立,(3)動画の一部のシーンでも検出可能,(4)家庭用パソコン程度の処理能力でも動作可能,である。それぞれ簡単に説明する。

 (1)の「シグネチャを用いた改変動画の識別」は次のように行う。映像の各コマ(フレーム)の様々な位置に,種々の大きさ・形状の領域をペアで複数設定し,それぞれのペアの領域における輝度の差分値をシグネチャとして抽出する。このシグネチャは人間の指紋のように画像ごとに異なるため,従来は対応が難しかったアナログ・キャプチャ,再エンコード,テロップ重畳など,大きな改変を加えた動画でも正しく検出できるようになるという。

 (2)の「高い識別率と低い誤検出率」に関しては,次のように説明している。今回の技術では,フレーム中で輝度の差が少ない場合はその信頼度を低くするなどシグネチャの有効性を推定し,有効なシグネチャを重視して識別に利用する。これで,安定した高精度の識別率と,低い誤検出率を実現した。国際標準化機関のテストでは,平均96%と高い識別率と,5ppmと低い誤検出率の両立を実証したという。

 (3)の「動画の一部のシーンでも検出可能」に関しては,生成したシグネチャが高い識別性能をもっているために実現できたとする。具体的には,従来の手法では検出が不可能だった2秒程度の短いシーンでも,今回の技術ならば正しく検出可能という。

 (4)の「家庭用パソコン程度の処理能力でも動作可能」に関しては,次の通りである。シグネチャを1フレームあたり76バイトとコンパクトに設計して,照合に用いる動画の特徴量を保持するために必要なメモリ容量を大幅に抑制した。これによって,家庭用パソコン程度の処理能力でも,1秒間に1000時間分程度の照合を可能にしたという。

 今回の技術は,4月19~23日にドイツのドレスデンで開催の第92回ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11(通称MPEG)会議において,ISO/IEC 15938-3/Amd.4(MPEG-7 Video signature Tools)の最終規格案として承認された。今後,ITTFによる加盟国投票を経て,9月頃に正式に規格化される予定。

 NECは今後も今回の技術の研究開発を今後も進めて,制作者の権利を尊重したコンテンツ流通機構の確立に努めるとともに,この技術を活用した様々なアプリケーションの開発を目指す。また,5月12日~14日に東京ビッグサイトで開催される第13回組み込みシステム開発技術展(ESEC)にNECはこの技術を出展する。