4月23日から開催されている北京モーターショーは,予想通りにハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の展示ラッシュとなった。地球環境問題への対応が急務となる中,自動車各社はこのような次世代環境対応車の開発を加速しており,一気に普及が加速する可能性がある。

 これらの環境対応車,特に内燃機関を持たないEVの普及は,自動車業界に大きな変化をもたらす可能性がある。クルマや,ものづくり,そして周辺産業にどのようなインパクトを与えるのか。「電気自動車が革新する企業戦略」の著者であるA.T.カーニー パートナーの川原英司氏に話を聞いた。(聞き手は木村知史=Tech-On!)

――日産自動車が2010年12月に発売する「リーフ」の予約状況も好調なようで,想像以上にEVの普及のスピードは早いように感じるのですが。

川原氏
A.T.カーニー パートナー 川原英司氏

 そうですね。ただ,普及がどのように進むのか,まだ不確定な要素が多いのも事実です。そこには様々な要因が絡み合っていますが,我々は普及のスピードを決めるのに以下の三つの要素(1)電池のコスト(2)電池の性能(3)充電インフラの整備――の影響が大きいと考えています。

 (1)の電池コストですが,EV用の2次電池には高いエネルギー密度が求められるため,現在実用化されている電池の中ではリチウムイオン2次電池が最有力だと考えられています。ただ,現在ではEVに搭載するとなると,電池コストだけで200万円を超えると言われており,本格普及のためには,このコストを下げることが必須です。

 (2)の電池の性能ですが,EVの航続距離を決める重要な要因です。現在,EVを満充電した場合の航続距離は100~200km前後であり,エアコンなどを使用すると,これがもっと短くなるでしょう。EVの実用性を高めるには,もっと長い航続距離が必要となりますし,また安全性や信頼性,サイクル寿命,リサイクルなどの課題を解決する意味でも,電池性能の改善は重要になります。

 (3)の充電インフラの整備ですが,EVは自宅や駐車場で充電できるという潜在的なメリットがクローズアップされている一方で,今すぐ使えるような充電設備はほとんどありません。電池切れの不安を解消するためには,一定規模の充電インフラは不可欠で,制約要因とも言えるでしょう。

 もちろん、それらを補完し促進するような各国政府の政策支援や、変革に取り組む企業の意気込みが重要であることは言うまでもありません。

――電池の技術進化がEVの将来を大きく左右することになりそうですね。となると,電池ビジネスの主導権が握れれば,企業として大きな成長と収益を得られることが約束されるのでしょうか。

 期待できると思います。自動車用2時電池の市場規模は,2009年時点で1000億円程度と見積もられています。これが,2020年には2兆円を超える規模にまで拡大するという試算もあります。このような市場拡大の期待が,現在電池の開発競争を激化させています。