広島大学大学院総合科学研究科特任教授の彦坂正道氏と同博士研究員の岡田聖香氏らは、引っ張り強さが230MPaで、比強度が鉄鋼の2~5倍、アルミニウムの6倍と高いポリプロピレン(PP)製シートの開発に成功した。引っ張り強さは、通常のPPの7倍以上。耐熱温度Td(熱変形量が3%以上となる温度)は、176℃と通常のPPよりも50℃以上高い。混ぜ物を一切加えないで済むので、高い収率でリサイクルできるポテンシャルも持つ。弾性力が高いことも特徴で、折りたたんで力を外すと、再び元の形状に戻るといった特性も備える。その上、透明度も高いので、ガラスの代替材としての活用も期待できるという。ちなみに同成果は、科学技術振興機構の産学連携事業の一環として実施した研究から得られたものである。

 同PPシートの実現でポイントになったのが、製法である。彦坂氏らは、融点以下に冷やしたPPの融液を圧力でつぶすという独自の手法を用いることでPPの結晶化度をほぼ100%に高めた。通常のPPは、結晶にならない非晶の部分の比率(非晶率)が50%超と高く、これがPPの強度や耐熱性などの特性が金属に比べて著しく劣る要因とされる。

 彦坂氏らは、今回の研究に先立ち「結晶性高分子の結晶化初期メカニズムの研究」を実施。その中でPPの結晶化度が低いのは、PPの高分子鎖が融液の段階では毛玉状に絡み合っていることがそもそもの原因であることを突き止めていた。こうした知見から、同氏らは、PPの融液を引っ張って伸ばしながら結晶化させれば、高分子鎖の配向がそろって結晶化度を上げられると推測。そして、液体の融液を引っ張るために講じた方法が、左右に細長い溝の中に融液を入れて瞬間的に圧力を加えてつぶすというものだった。圧力を加えると、融液内に左右に広がる激流が生じて急流にさらされた布のように高分子鎖が引き伸ばされて、高配向したナノ結晶が実現すると考えたわけだ。

 そこで、同氏らは、融点以下に過冷却した高分子の融液をつぶす圧力や速度を変えながら伸長と配向の様子を観察。同じ結晶化温度でも結晶化が一気に10万倍も速くなる条件を見いだした。同氏らは現在、サンアロマー(本社東京)やエフピコといった企業と共同で産業化を目指した研究を推進中だ。