スピーカー・ユニット
スピーカー・ユニット
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筐体の外へ音を導く
筐体の外へ音を導く
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細長い穴を発見
細長い穴を発見
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スピーカー・ユニットを分解すると…
スピーカー・ユニットを分解すると…
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筐体全体に音を伝えるためなのか
筐体全体に音を伝えるためなのか
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ありがとうiPad
ありがとうiPad
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 iPadの分解と,それに続く部品の解析作業が終了し,一息つく技術者たち。分解時のワクワク感と緊張感が抜け,お茶を飲みながら談笑を始める。

 しかし,私にはどうしても気になる部品があった。それは,スピーカーである。なぜか二つのスピーカーが,接触するように並んで配置されていたのだ。そんなに近づけて配置したら,ステレオ効果は得られないだろう。

 そもそも,縦へ横へと向きを変えながら使うiPadでは,それぞれのポジションでユーザーにステレオ効果を体験してもらうのは難しそうだ。であれば,いっそのことスピーカーを一つにすればよかったのに。大きなスピーカーを置く場所がなく,音量をかせぐために小さなスピーカーを二つ使ったのだろうか。

 そんな素朴な疑問を,近くにいた技術者にぶつけてみる。
「さあ,なぜでしょうね」。
LSIなどに比べて地味な存在のスピーカーには,あまり関心がないようだった…。

 諦めきれずに,ほかの技術者にも聞いてみる。
「確かにヘンですねえ。どうしてだろう」。
スピーカー・ユニットを手に取り,じっと目を凝らす技術者。スピーカー・ユニットには,筐体に空いた三つの穴へと音を導く溝がある。一方のスピーカーは二つの穴に,もう一つのスピーカーは一つの穴につながっている。

 そのとき,
「ん?ここに何かありますよ」。
ユニットの端にある細長い穴を指差し,技術者が言った。
「ひょっとして,ここに音を導いているのかも」。
そう言うなり技術者は,ユニットの接合部にカッターの刃をねじ込んだ。パカッ。スピーカー・ユニットはあっさりと二つに割れた。そこには,一方のスピーカーから音を導いているような溝があった。

 その技術者の推測では,「筐体全体に音を行き渡らせるために,こうした機構を採用したのではないか」ということだった。さらに,「ハード・ディスク装置(HDD)を搭載した機器では,こうした機構を取り入れることは難しい」とも。音の振動が伝わると,HDDの動作に悪影響を与えて読み書きに時間がかかる場合があるからだという。

「確かに,手に持ったときに筐体全体に音が伝わっている感じがするねえ」。
分解していない別のiPadを操作していた別の技術者が同調した。

 私の最初の疑問は解決できたような,解決できなかったような感じだが,新たな発見があって何となく満足。

 こうして,iPadの分解作業はひとまず幕を閉じるのであった。