802.11WGに提案した資料から
802.11WGに提案した資料から
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 米IEEE802.11WGは,無線LAN利用時のセキュリティー認証プロセスを,大幅に高速化するための仕様作りに着手する。

 2010年3月14~19日にフロリダ州オーランドで開催されたIEEE802.11WGの総会で,新たなスタディ・グループ(SG)の創設が決まった。名称は「fast initial authentication」。無線ネットワーク関連事業を手掛けるルート 代表取締役の真野 浩氏が主導し,トランス・ニュー・テクノロジーや米Marvell Technology社らと共同で提案したもの。802.11WGの討議で,賛成多数によりSGの立ち上げが承認された。2010年5月に中国・北京で開催される中間会合から,SGとしての作業が本格スタートする。

 無線LANのセキュリティー(IEEE802.11i)における初期認証では,端末側とアクセス・ポイント側において,計14回のデータ・パケットのやりとりが発生し,このために「理想状態であっても,認証だけで約48msの時間がかかる」(ルートの真野氏)という。fast initial authenticationでは,この時間を1/10~1/15に低減することを目指している。「混雑時の駅など,多数の人が移動しながら行き交うような場所では,接続端末数が多数に上る。こうした際でも,よどみなく端末とステーションが接続したりセキュリティーの認証を済ませたりできるようにしたい。例えばiPhoneを持って通過すると,自動的にメールやTwitterの情報が更新されるようなことである。そのためには,初期認証の高速化が必須になる」(ルートの真野氏)。

 真野氏がこうした提案をIEEE802.11に持ち込んだのは,無線LANサービスの普及が進む一方で,移動時の利用形態に課題があると考えているためだ。「無線LANはこれまで,そのデータ伝送速度を高めながら進化してきた。セキュリティーの手法も段々と高度化している。利用する端末も,ノート・パソコン中心から,携帯電話機や携帯型ゲーム機など範囲が広がっている。にもかかわらず,その利用形態は相変わらずnomadicだ。高速移動時に無線LANステーションの前を通過するだけで情報を更新できるような,もっとモバイル機器に向いた仕様に進化させる必要がある」(ルートの真野氏)。  

 初期認証の高速化を実現することで,無線LAN対応のモバイル機器において,アクセス・ポイントの前を通過するだけでプッシュ型の情報配信サービスを受信したり,Facebookなどの情報更新を瞬時に済ませたり,といったことが可能になるという。走行中の自動車から,家庭の各種メーターの数値を読み取ったり,デジタル・サイネージから複数のユーザーにデータを一斉配信したり,といった使い方も想定している。

 真野氏ら主導グループは,今後SGでの議論を進めながら,標準仕様策定の作業部会「タスク・グループ(TG)」への昇格を目指す。そのために,プロジェクト承認のための「PAR(project authorization request)」や「5C(five criteria)」の作成を急ぐ方針だ。

 なお今回,真野氏らがIEEE802.11に対して行った標準化グループ創設提案は,総務省の「ICT標準開発プロジェクト」の実施テーマとして,支援を受けたものである(総務省の発表資料)。日本の企業からの国際標準化提案として,今後注目を集めることになりそうだ。