本記事は,Image Sensors Worldの「Invisage Technology in Patents」を抄訳したものです(大槻 智洋=日経エレクトロニクス)。

 米InVisage Technologies, Inc.は,「量子ドットの利用によってCMOSセンサの出力を高めた」という。だが,同社の発表は不明点が多い。実際のところ,彼らは何をしたのか,出願中の特許から推定してみよう。見つけた出願は今のところ三つある。

 公開番号「US2009152664」,「US20100044676」,「WO2008131313」である。これらをざっと読んだ限りでは,InVisage社のCMOSセンサの構造や性能は,以下の通りのようだ。
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信号の読み出し方は,特殊ではない。トランジスタを三つ使うようだ。こうした回路構成では,一般にkTCノイズがS/Nを下げるという問題が発生する。対策は分からないが,WO2008131313の発明者リストの中には,米SMaLCamera Technologies社 元CTOのKeith Fife氏の名前がある。彼ならば何かやってくれそうだ。

画素のレイアウトを示した。仮に台湾TSMC社の0.11μmプロセスで,これを実現できたとすれば,画素ピッチは1μm近くになるだろう。このピッチの狭さは,コスト競争力を大いに高め得る。

出願文書は,画素共有(一つのトランジスタが複数の画素の信号出力を担うこと)に言及していた。

InVisage社のセンサでは,量子ドットを形成したQuantumFilm(以下,フォトコンダクターと呼ぶ)が光電変換を担う。このフォトコンダクターが出力する光電流は,この図が示すように時間の経過とともに減少してしまう。このため,フォトコンダクターのゲイン調整が必要になるはずだが,本図での記載はない。

キャリアのライフタイムは照度に左右される。このため,フォトコンダクターのゲインは,非線形に変わる必要がありそうだ。

フォトコンダクターにPbS(硫化鉛)を用いた場合,量子効率が60%近い。

PbSe(セレン化鉛)を使うと,量子効率は70%と非常に高くなる。CuGaSe2,CuInSe2などの利用も考えているようだ。

出願には,米Foveon社のCMOSセンサように,光電変換層を縦に積む構造が詳しく書かれていた。仮にこうした構造で量産出荷できれば,InVisage社は他社との競争を有利に展開できる可能性がある。

 全般的に言ってInVisage社の研究レベルは高く,量子ドットを形成したフォトコンダクターというアイデアを生かした設計をしている印象を受ける。出願における性能値は,競争力が高い製品をInVisage社が生みだし得ることを示していた。

 ただし,同社の撮像素子が民生用途に適しているかというと疑問がある。現行のCMOSセンサが用いるフォトダイオードは,シンプルだ。発生した信号電荷を電界をかけて読み出すだけである。これに対して同社のフォトコンダクターは,信号出力の過程(recombination process)が非常に複雑であり,これがノイズ源となって現行方式のS/Nを超えられないのではないだろうか。