NEC,産業技術総合研究所,東京大学の共同グループは,インクジェット法で作製するカーボンナノチューブFETに関する研究成果を発表した。カーボンナノチューブの溶媒に水を使う場合に,描画精度が高く,しかも高いFET特性を得られた。同グループは今回の成果を,「第57回応用物理学関連連合講演会」(東海大学 湘南キャンパス,2010年3月17~20日)で発表した(講演番号:19p-TE-10)。

 NECらは,樹脂基板などにインクジェット法でカーボンナノチューブFETを作製することを目指し,カーボンナノチューブの液滴材料の研究を進めている。液滴の吐出にインクジェット法を使う場合は,ディスペンサなどを使う場合に比べて「液滴材料の特性に対する要求が高まる」(NEC)という。具体的には,粘度が3~10cps,表面張力が30~40mN/mといった条件が求められる。

 NECらは,カーボンナノチューブを溶質とするさまざまな液滴材料を使って,インクジェット・プロセスの研究を進めている。水と複数の有機溶媒を比較した結果,現状では,溶媒に水を使う場合にもっとも良い描画特性が得られているという。

 水に,半導体比率が95%のカーボンナノチューブを10ppm,エチレングリコール系の界面活性剤を100ppm加えた液滴材料では,線幅70μmのパターンを精度よく描けた。この材料でチャネルを形成したFETの特性は,キャリア移動度が5.1cm2/Vs,オン/オフ電流比が9.7×103といずれも比較的良好である。チャネル長は約100μm,ゲート,ソース,ドレインの各電極は蒸着法によるAu,ゲート絶縁膜にはスピンコート法によるポリイミドを使った。

 NECらは今後,液滴材料の組成の最適化や,カーボンナノチューブ密度の向上などを進める。同社は,インクジェット法によるカーボンナノチューブFETの用途として,ディスプレイ用のセンサや信号線ドライバIC,RFIDタグなどを想定している。