京都工繊大が試作した太陽電池セル(右)。p型GaNの薄膜にCoを添加したGaNの層,さらにn型のGaNを積層した。吸収層のあるセルの寸法は10mm角。周囲にある細長い矩形のパターンが電極。左は,Coを添加しないp型GaNの薄膜。
京都工繊大が試作した太陽電池セル(右)。p型GaNの薄膜にCoを添加したGaNの層,さらにn型のGaNを積層した。吸収層のあるセルの寸法は10mm角。周囲にある細長い矩形のパターンが電極。左は,Coを添加しないp型GaNの薄膜。
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 京都工芸繊維大学の准教授 園田早紀氏の研究グループは「第57回応用物理学関係連合講演会」で2010年3月19日,紫外から可視光,赤外線までの幅広い波長域の光を光電変換に利用可能な太陽電池を試作したと発表した。窒化ガリウム(GaN)などバンドギャップが大きい透明な化合物半導体に,マンガン(Mn)など「3d遷移金属」を添加することで実現したという。多接合型のセルを作らずとも,単純な接合のままで変換効率が非常に高い太陽電池の開発につながる可能性がある。現状では変換効率はまだ低いが,開放電圧は約2Vと非常に高い。

 園田氏らは,「紫外-可視-赤外光電変換材料としての遷移金属添加窒化物半導体 ~シンプルな素子構造の次世代超効率太陽電池の実現を目指して~」というタイトルで講演した。15分の発表枠を6枠連続で使った計90分の講演である。

 園田氏は,バンドギャップが約3.4eVと大きいために透明なGaNに,Mnを数%~20%まで添加すると,紫外から可視光,赤外までの広帯域の光に対してほぼ連続的に高い吸収係数を持つことを見い出した。実際,p型GaNにMnを添加して作製した太陽電池セルは,Mnを添加していない素子と違い,黒く不透明になっている(写真)。

 同氏によれば,これはMnの3d軌道のエネルギー準位を主成分として形成された「不純物バンド」モデルで説明できるという。バンドギャップが大きい半導体材料に不純物を添加して,エネルギー準位が小さい電子が登れない禁制帯に「はしご」をかけ,より長波長の光を吸収させるようにする技術は以前からある。そのバンドギャップ構造は一般に「中間バンド」と呼ばれている。ただし,今回の仕組みは,「従来の中間バンドと同じメカニズムかどうか明確でない」(園田氏)という。

 既に,Mnのほかにさまざまな3d遷移金属の添加を試みて,多くの場合に同様な結果を得たという。3d遷移金属とは,原子番号(原子核中の陽子の数)が増えた場合に,最外殻軌道の内側にある3d軌道に電子が増えていく元素のこと。具体的には,スカンジウム(Sc),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),Mn,鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn)が含まれる。これらの添加元素をうまく選べば,「バンドギャップが非常に大きい窒化アルミニウム(AlN)でも,可視光域に吸収域を持たせられる可能性がある」(園田氏)。

 今回作製した太陽電池セルは,p型のGaN上にCoを添加したGaN,およびn型のGaNの層を積層したもの。開放電圧(Voc)は1sunで2V以上と大きい。一般には単接合セルで開放電圧が2V以上に大きいことは,バンドギャップも大きく,可視光のうちの短波長側の光(青や緑など)しか光電変換に利用できないことを意味するが,今回はそれに当てはらまない。
 
 一方で,短絡電流密度は,約10μA/cm2と,一般の結晶Si太陽電池での値より3ケタ小さい。理由の一つは「セルと電極が離れており,それらをつなぐp型GaNの電気抵抗が非常に大きいため」(園田氏)。フォトリソグラフィの装置がまだ使えず,出力電流を正確に測るための設計ができなかったという。この結果,現在のセル変換効率は,0.01%台と非常に小さい。

 GaNを基にした太陽電池では,最近はInを添加することで,バンドギャップを小さくし,可視光を吸収できるようにする研究開発が盛んになっている(関連記事)。ただしこの場合,広帯域の光を電気に変えるにはInの添加率を変えるなどした材料を用いた多接合型セルが必須になる。今回の研究は,同じGaNを基にしていても全く違う仕組みを備えた太陽電池につながりそうだ。