無線通信の標準化団体である米IEEE802.15委員会は,2010年3月18日,スマートメーターに向けた無線仕様策定において,NICT(情報通信研究機構)や東京ガス,富士電機など日本勢が推進する技術提案を採択することを決定した。

 電力やガス/水道メーターの遠隔読み取りなどに使う通信方式の標準化作業部会「Task Group 4g(TG4g)」で,投票によって決定されたもの。同部会には,欧米やアジアの企業から複数の技術提案があり,方式の一本化に時間がかかっていた。今回,NICTや東京ガス,富士電機,米Silver Spring Networks社,Elster社,米Itron社,米Texas Instruments社などの共同提案が,賛成多数によって基本伝送方式に選出された。今後,文書による投票(レターバロット)の段階に移る。上部機関の承認を経て,早ければ2011年前半にも,標準規格として発行される予定。

 基本伝送方式が固まったことから,半導体やソフトウエアのメーカーによる対応品の開発がいよいよ本格化する。早ければ2010年後半にも,4g規格準拠の無線チップセットや参照デザインが登場するとみられる。同方式の技術提案を行った国内メーカーの中には,製品開発を平行して進めている企業がある。今回の技術提案の採択により,こうしたメーカーが早期に製品を市場投入できる可能性があるほか,特許など知的財産権においても有利な事業を展開できそうだ。

FSK/GFSKを主に活用

 今回採択されたのは,無線通信の物理層の技術。ZigBeeなどの物理層に使われている「IEEE802.15.4-2006」の拡張仕様に相当する。変調方式に,MR-FSK(multi-rate and multi-regional frequency shift keying),OFDM,MR-O-QPSK(multi-rate and multi-regional offset quadrature phase-shift keying)を使う。適用地域によって周波数帯などが異なっており,例えば日本では400M~430MHz(国内での制度化終了後に標準資料に反映予定),および950.1M~955.7MHzである。中国は470M~510MHz,米国は450M~470MHzおよび900MHz帯である。このほか2.4GHz帯のISM帯にも対応する。

 ほぼ世界共通となる伝送パラメータは,1チャネル当たり200kHzの帯域を使い,FSK/GFSKで50kビット/秒のデータ伝送速度を確保する場合である。誤り訂正符号には畳み込み符号を使う(符号化率は1/2)。畳み込み符号は,ノンシステマティックのほか,元符号を把握できるシステマティックも用意する。チャネル帯域を2倍にしたり,4値GFSKなどを活用したりすることで,400kビット/秒の伝送速度にも対応する。送信出力は,例えば日本の場合は最大10dBmで,最大150mの伝送が可能である。

 今回の提案には,TI社や米Silicon Laboratories社,米Analog Devices社など無線ICのメーカーが加わっており,対応品の開発を進めているとみられる。提案の主導企業の1社である東京ガスは,スマートメーターの導入に向けた検討を進めており,今回の標準方式をその通信部分に採用する可能性もありそうだ。