ソニーはケータイやOSを自社で持つべき

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 ほかのメーカーはどうでしょうか。既存の家電メーカーの中でApple社に近い会社,DNA的にソフトウエア技術者を多く抱えていてソフトウエア技術者に比較的人気のある会社といえば,ソニーです。

 たしかに,ソニーは三つのカテゴリに向けてデバイスを出しています。「プレイステーション」を放送革命と言うのは少し強引かもしれませんが,テレビとインターネットにつながったデバイスは,最終的には映像を配信する装置として使われる可能性があります。当然ですが,同社は電子書籍端末も出しています。

 通信の分野でソニーが少し厳しいのは,携帯電話機を開発しているのがソニー本体ではなく,他社との合弁会社であるSony Ericsson Mobile Communications社だということです。戦略が少しずれています。ソニーが本気で通信の分野を取りに行くなら,やはり携帯電話機の開発やビジネスは本体に持っていなければならない。

 「Android」を搭載した携帯電話機などを出している場合ではありません。OSも自社で持っているべきです。ソニーは,プレイステーションやPSPといった家庭用ゲーム機を自社で開発し,多くのソフトウエア技術者を抱えています。Linuxベースでもいいので本気でOSを作り,ソフトウエアのプラットフォームや開発環境を用意すれば,Apple社と対等に戦えるはずです。私は,米Microsoft Corp.からOSのライセンスを受けるのをやめる強さを持った会社はソニーくらいだと思っていました。ただ,なかなかそうした方向には動けないようです。

 ソニーは,打つべき手は一応,打っているのですが,全体戦略が欠けています。会社のカルチャーや規模の問題かもしれませんし,Apple社のSteven Jobs氏のように一人ですべてを決める人間が特にいるわけでもありません。加えて,流通に関する仕組みも少し欠けています。米Sony Pictures Entertainment Inc.を持っているのにコンテンツ戦略の部分が抜けています。あるいはSony Pictures社を持っているからこそ,なのかもしれないですが。

利益率で両社に圧倒的な差

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 Apple社とソニーを数字で比べてみましょう。Apple社の時価総額(スライドのTotal Cap.)は,ソニーよりはるかに上です。これは面白い話です。売り上げ(Revenue)は,まだソニーの方が2倍近くありますから。ソニーは純利益(Net Profit)がたまたま赤字だったから株価が低いのではないかと思うかもしれません。しかし,過去何年かの動きを見ていると,そういう問題ではないことが分かります。

 何が起こってるのでしょうか。まず注目すべきは粗利益率(Gross Margin)です。ソニーが20%なのに対し,Apple社は40%です。1米ドルのモノを売ったときに,Apple社には40セント入ってくるのに対し,ソニーには20セントしか入りません。この違いが大きいのです。

 なぜ違うのかというと,ビジネスモデルが違うんですね。ソニーは他の多くの家電メーカーと同じく,もともとハードウエアの会社であり,自社で工場を持っています。他社に比べればそれほどでもないですが,かなりの部品を内製しています。

 これに対して,Apple社は基本的にソフトウエアで差異化を行っています。ハードウエアの設計者はいますが,製造はすべて中国などに任せて,基本的に自分たちは在庫コストを負わないというビジネスモデルを採用しています。40%の粗利益率を持っている会社というのは,結局,DNAが違うんです。一般的な家電メーカーはこうした数字は持っていません。このような数字を持てるのは,Apple社や米Cisco Systems, Inc.といった会社だけです。

 EBITAという米国人が好きな指標で見てみましょう。利益から税金や減価償却費などを引く前の数字です。過去に使ったお金を考慮せず,毎年どれだけのお金を生み出しているかだけを見るもので,いわば現在のスナップショットです。この数字を比べると,やはり全然違います。ソニーは毎年30億米ドルを生み出しているのに対し,Apple社は140億米ドルです。

 生み出しているお金がこれだけ違うので,時価総額が違うのです。「Apple Computer Inc.」が「Apple Inc.」に変わり,着実に正しい分野に製品を出していった。これにより,ソニーの方が販売する製品の絶対量が多いにもかかわらず,Apple社の時価総額の方が大きくなった。これは,家電業界全体に対してインパクトが大きい話だと思います。

―― その4へ続く ――


 中島聡氏の講演の動画はUSTREAM UIE Japanチャンネルで公開されています。この講演に対するTwitterでの反応は#AppleGoogleImpactというハッシュタグで見ることができます。