量子ドットの概要と目指す太陽電池
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セル構造の様子
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I-V曲線の改善の様子
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 東京工業大学 教授の小長井誠氏の研究グループは,Si量子ドットを用いた太陽電池で,開放電圧(Voc)やI-V特性の形状因子(FF)の値を大きく向上させた。2010年3月10日,応用物理学会が開いた2010年の春季応用物理学会学術講演会の報道機関向けプレビュー発表会の場で発表した。

 量子ドットは,粒径が10nm前後の半導体の粒を指す。その粒の場所だけ井戸の穴のようにバンドギャップが現れる。粒径を変化させることでそのバンドギャップの大きさを制御できるため,多接合型の太陽電池セルを構成しやすいとされる。

 小長井研ではSiを用いた量子ドットを並べて太陽電池とした素子の研究を進めている。Siを用いるのは,プラズマCVDという量産向きの製造方法が使える強みがあるからだ。ただし,これまでは想定する発電特性が得られているとはいえなかった。

 今回,小長井研 産学官連携研究員の黒川康良氏は,Si量子ドットの周りにあるアモルファスSiCの層に酸素を添加してSiCの結晶化を阻害することなどで,素子のVoc=518mV,FF=0.51という値を得た発表した。これまでのSi量子ドット太陽電池では,オーストラリアNew South Wales UniversityのProfessor M. Green氏のグループが発表したVoc=492mVが最高値だったという。「目標は700~1000mVにすること」(黒川氏)。

 FFの値は,以前の小長井研での0.25に比べて大幅に向上し,短絡電流Iscが0.338mA/cm2と小さいことを別にすれば,I-V曲線が太陽電池の特性らしくなってきた。「Iscが小さいのは,透明電極代わりのn型の結晶Si層に電流が漏れているためだろう」(黒川氏)。

 詳細は,第57回応用物理学関連連合講演会(東海大学 湘南キャンパス,2010年3月17~20日)で紹介する(講演番号:18a-B-11)。