図 右にあるのが試作した波長板,中央にあるのがSiC製の金型,右がガラス材料。
図 右にあるのが試作した波長板,中央にあるのがSiC製の金型,右がガラス材料。
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図 説明パネル
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 コニカミノルタオプトと産業技術総合研究所らの研究グループは,研究開発中のガラス微細加工技術の最新成果を,「nano tech2010 国際ナノテクノロジー 総合展・技術会議(2010年2月17~19日,東京ビッグサイトで開催)」で披露した。この微細加工技術によって,ガラス製1/4波長板を実現するまで,「あと一歩のところまできた」(説明員)という。

 同グループは,モールド法によってガラスに1μm以下の微細な周期構造を設け,機能性光学部品を実現する研究開発に取り組んでいる(Tech-On!関連記事1)。

 このうち,今回は偏光状態の制御に利用する「波長板」を実現する取り組みを紹介していた。波長板とは光の偏向状態を変える素子で,CD/DVD/Blu-ray Disc装置の光ヘッドで利用されている。透過する光の直交する2方向の成分に位相差が生じることで,偏向状態が変わる。一般的には「複屈折材料」と呼ばれる材料で位相差を発生させるが,光の波長よりも微細でかつ周期的な凹凸構造を設けると,複屈折材料と同様な効果を得られる。凹凸構造の凸部分の高さや幅,周期,材料の屈折率によって位相差は変化する。

 1/4波長板は直線偏光を円偏光へ,もしくは円偏光を直線偏光へ変換する素子である。光ヘッドの1/4波長板としては,安価に製造できる樹脂製のものなどが利用されている。ガラス製波長板は,樹脂製品に比べて耐熱性が高い,短波長の光による劣化が生じにくい,屈折率が高いなどの特徴を備えるが,高価という課題がある。そこで,モールド法によって生産性を高め,ガラス製の波長板を樹脂製品並みの価格に近づけるのが目標である。

 現在,波長400nmほどの光で0.243λまでの位相差を得ることに成功したという。1/4波長,すなわち0.25λに非常に近づいた。これにより,発振波長405nmの青紫色半導体レーザを利用するBlu-ray Disc向け光ヘッドへの利用が見えてきたという。

製造法の改善とガラス材の変更で実現


 今回変更したのは,主に周期構造とガラス材である。まず,微細な凹凸構造の周期を3年前の500nmから250nmへと半分にした上,片面から両面へ凹凸構造を設けた。

 研究グループが用いるモールド法は,周期的な凹凸構造を設けた金型を高温に熱して軟化したガラス板に押し当て,その後金型を離して冷却し,ガラスに周期構造を設ける。微細な凹凸構造を設ける上で重要なのが,いかに金型の溝にガラスを充填し,かつきれいに離型することにある。そのために,金型の構造や成形時の温度や時間,型を押し当てる圧力,冷却のタイミングといった条件の最適化を図る。加えて,利用するガラスの材質によって,その条件を変えなくてはならない。

 今回利用したガラス材料は,屈折率(nd)が1.816と高く,ガラス転移点が429℃と低い,透過率が高いといった特徴がある。例えば,従来のガラス材料の屈折率(nd)は1.6と低かった。屈折率が高いほどより位相差を拡大しやすく,ガラス転移点が低いほど,より低温でガラスを軟化させやすい。だが,一般に屈折率の高いガラス材料は,転移点も高い傾向があるため,高い屈折率と低い転移点を両立するのは難しいという。透過率は400nmの光で85%ほどである。なお,このガラス材料は五鈴精工硝子が開発したビスマスホウ酸塩系ガラスである。

 このほか,金型も改良した。金型にテーパを設けて,凹部の側面形状を底から表面まで滑らかに変化させ,離型しやすいようにした。金型の材質も従来のグラシーカーボンからSiCへと変更し,金型の寿命を長くしたとする。