スペクトル変換シートの使い方の一例。太陽光の一部の波長の光を別の波長に変換して,太陽電池にあてる機能を備える。
スペクトル変換シートの使い方の一例。太陽光の一部の波長の光を別の波長に変換して,太陽電池にあてる機能を備える。
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既存の材料では,500nm弱以下の波長の光を600nm台の波長の光に変換できる。
既存の材料では,500nm弱以下の波長の光を600nm台の波長の光に変換できる。
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スペクトル変換材料の分子構成の例。RE:希土類金属,M:金属,ROまたはOR:アルコキシ基。分子の直径は約2nmである。
スペクトル変換材料の分子構成の例。RE:希土類金属,M:金属,ROまたはOR:アルコキシ基。分子の直径は約2nmである。
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EuとAlから成る材料(左)と,それをさらにミヒラーケトン(MK)で修飾した材料(右),およびそれらをアクリル樹脂(PMMA)に混ぜたもの。紫外線の照射によって,MKで修飾した材料がオレンジ色に発光している。
EuとAlから成る材料(左)と,それをさらにミヒラーケトン(MK)で修飾した材料(右),およびそれらをアクリル樹脂(PMMA)に混ぜたもの。紫外線の照射によって,MKで修飾した材料がオレンジ色に発光している。
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 米国の受託研究機関Battelle Memorial Instituteと三菱商事の合弁会社であるバテルジャパンは,太陽光発電向けのスペクトル変換材料を開発し,「nano tech 2010 (国際ナノテクノロジー総合展,2月17日~19日)」に出展した。まだ開発途上の技術だが,「将来的には太陽電池の変換効率が5~10%向上する可能性がある」(バテルジャパン シニアリサーチリーダーの股木宏至氏)という。

 股木氏が開発したスペクトル変換材料は,希土類の金属原子1個が,別の金属原子3個とアルコキシ基を介してつながった構造を採っている。こうした材料に太陽光を照射すると,紫外領域や青色の光など単結晶Si太陽電池などが発電にうまく利用できない短波長帯の光だけをこれらの材料が吸収して,より長波長で発光する。

 今回,実際に出展したのは,希土類金属にユーロピウム(Eu),その他の金属にアルミニウム(Al)を選んで,アクリル樹脂(PMMA)に混ぜたもの。これをシートにして,太陽電池セルの上,または裏面に重ねると,これまで利用できなかった波長帯の光も,太陽電池での発電に利用できるようになるという。

 光を受けて発光する材料は,一般に「蛍光材料」または「リン光材料」と呼ばれる。従来のこれらの材料と比較した今回の材料の特徴は,(1)分子同士が凝集しにくいため,樹脂に混ぜても透明度が低下しにくい,(2)有機蛍光材料に多い,発光した光を再吸収してしまう割合を低減,(3)有機蛍光材料には一般に,(2)と同様な理由によって濃度が高まると発光しなくなる課題があったが,今回は10~100倍の濃度でも問題がない,(4)吸収する光の波長領域や発光波長を,希土類金属,あるいは別の3個の金属原子の変更,さらにはアルコキシ基を修飾するなどの変更によってさまざまに設計できる,などの点だという。

 (4)は例えば,EuとAlから成るスペクトル変換材料を,ミヒラーケトン(MK)で分子を修飾すると,波長が400~450nmの光を吸収するようになり,Alの代わりにガリウム(Ga)を用いると,波長が400~550nmの広帯域で発光するようになるという。