トヨタ自動車の一連の品質問題においてリコール台数が数百万台規模に上ったことを受け,その原因を「部品の共通化」に求める報道や論評がみられる。そうした見解を,モジュラーデザインの第一人者でトヨタ研究家でもある日野三十四氏は「表層的な見方」と切って捨てる。品質問題の真因はどこにあるのか,そして部品共通化はどのように進めるべきなのか,同氏に解説してもらった。(日経ものづくり)

 最近,トヨタ自動車の品質問題に関して「過度な部品共通化によってリコールの規模が拡大した」といった論評が横行している。こうした論評は,地震で生産ラインがストップすると「(部品在庫を持たない)トヨタ生産方式の欠陥だ」などと訳知り顔に言うたぐいで,話にならない。「製品ごとに固有の部品を多数用意したり,平時でも地震に備えて工場に在庫の山を持ったりした方がよいのか?」と自問すれば分かりそうなものだが,割と高名な知識人が有名なメディアで発言するものだから,筆者にも各メディアの記者や講演の聴講者などから同じような質問がよく来る。

 部品共通化が大量リコールの背景にあったとしても,部品共通化は表層的な原因にすぎない。真の原因は,品質を保証した部品共通化ができていないことである。部品共通化は,必ず進めなければならない製造業の基本命題である。特に,地球環境の保全が最大の課題になった21世紀においては,無駄な部品を造らないことが絶対条件である。無駄な部品を生めば,大量の製造機械/金型/治具/検査具/工具/専用材料などの生産機材が生まれ,そしていずれ廃棄される。それらが廃棄されるときには大量のエネルギが消費され,それは全部地球にストレスを与える。評論家は,「部品共通化のやり過ぎが大量のリコールの原因である」と論評するのではなく,「品質保証と両立する部品共通化を進めよ」と指摘しなければならない。

製品品質の確認は完成品メーカーの責任

 品質保証の基本は,第一に部品単体で品質が保証されていることであるが,部品単体で品質が保証されていても部品を組み合わせた製品の状態で品質が保証されているとは限らない。完成品メーカーは部品メーカーに対し,各部品について,外気温や湿度などの大気状態や,運転時間などの規定条件下で機能維持性や耐久劣化性などの品質基準を満たすように要求する。一方で,部品を組み合わせた製品の状態で品質を確認することは完成品メーカーの責任である。

 トヨタのアクセルペダルがフロアマットに引っ掛かって暴走するという問題は,アクセルペダルとフロアマット単独ではそれぞれ品質が保証されていても,それらを組み合わせた製品の状態では品質が十分に確認されていなかった典型例である。アクセルペダルのフリクションレバー部が摩耗したところにエアコンの氷結が付着して戻りが遅くなる問題もそうである。「プリウス」などのアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の利き不良問題は,自動車の使われ方の想定とその評価が不十分だった結果である。

 アクセルペダルやブレーキペダルは,大衆車でも高級車でもドライバーの体型はほとんど変わらないので,部品共通化をするのが当たり前の部品である。しかし,製品の状態では車格によってペダル周りのスペースなどが大きく異なるので,製品の状態での品質検証も手を抜けない。過去の製品やほかの製品で実績がある部品だからといって安易に部品を流用すると,想定外の品質問題が起きる。トヨタの一連の品質問題は,いずれも技術的に品質保証が難しいとか品質検証が難しいということではなく,完成品メーカーとしてやるべき評価の手抜きを感じさせられる出来事である。トヨタの品質問題は,「部品共通化のやり過ぎ」などという表層的な次元に落とすべきではなく,製品での品質検証の不十分さを指摘すべきである。

他社よりも進んでいるトヨタの部品共通化

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