シームレスな無線接続を目指したマルチバンド・マルチモード無線LSIにおいて,今回の「ISSCC 2010」では大きな進展が見られた。Session 25の「Wireless Connectivity」では,無線LANとBluetooth,FMラジオに対応し,パワー・アンプまで内蔵した米Broadcom社の最高集積度のマルチモードSoCや,45nm世代のCMOSプロセスによる0.1-3GHz帯対応のベルギーIMECのマルチスタンダード・トランシーバ,韓国Samsung Electronics社やAnalog Devices社によるISDB-T/DVB-Hデジタル・テレビ対応トランシーバ/SoCなど,複数の無線接続が可能なチップが続々登場した。

 前回の2009年までのISSCCにおいても,複数方式の無線に対応したチップの発表はあったが,今回は特に幅広い分野でのマルチバンド・モード対応チップの開発が同時進行的になされた感があり,進展には目を見張るものがある。

 Session 25の最初の発表はベルギーAudax社からで,ミキサにA-D変換器を直結することで,フィルタや利得制御といったアナログ・ベースバンドの機能をすべてデジタル領域で行うレシーバの発表がなされた[25.1]。一般にA-D変換器をミキサに直結した場合,妨害波などもすべてADCに入力されてしまうため,A-D変換器は極めて大きなダイナミック・レンジを備える必要がある。今回,Audax社はこの課題をVCOベースのA-D変換器を採用し,入力信号をVCOの周波数に変換することにより,時間領域での分解能を高めて解決したという。

 Broadcom社は,無線LANとBluetooth,FMラジオに対応し,パワー・アンプまで内蔵した最高集積度のマルチモードSoCを実現した[25.3]。65nm世代のCMOSプロセスで試作したチップであり,2.4GHz帯の54Mビット/秒データレートの場合,最小受信感度は-76dBm以下と良好である。

 一方,東芝は,2x1デュアル・バンドWiMAX対応トランシーバを発表した[25.4]。所望の周波数生成に必要な分数分周動作をミキサの近くで行う方式で,分数動作に伴い発生するスプリアス低減のために必要だったBPFを不要にした。さらに負性抵抗を用いた低雑音IFアンプを内蔵することで,3.8dBのNF性能を214mWの消費電力で実現した。

 ベルギーIMECは,40nm世代のCMOSプロセスを用いた0.1-3GHz帯のマルチスタンダード・トランシーバを報告した。DVB-H,LTE,WiMAX,WCDMAなどに対応可能である。受信部は5GHzまで動作可能で,NFは3GHz帯までは2-3dBと良好,5GHz帯では7dBである。

 韓国Samsung Electronics社は,最適な受信方式(Zero-IF/Low-IF)を選択可能なDVB-H/ISDB-T/TDMB対応のマルチ規格モバイル・テレビ向けSoCを発表した[25.7]。RF回路,FEC,ARMのCPUコア,SRAMまでを集積化している。Analog Devices社もDAB/T-DMBに加えてISDB-TやFMラジオを受信可能なSoCを発表した[25.6]。DC-DCコンバータを内蔵しており,消費電力は35mWと極めて少ない。