【EDSF 2010】組込みシステム開発におけるESLの果たす役割とその実現性を,パネル討論
EDSFair 2010(1月28日と29日にパシフィコ横浜で開催)の特設ステージで企画の一つとして,『組込みシステムにおけるソフトウェア開発要件とESL技術の対応〜「ものをつくる」から「ものにつくりあげる」へのシフト〜』というタイトルのパネル・ディスカッションが行われた。
モデレータは,組み込みソフトウェア業界での豊富な経験を持つ坂本秀人氏(ESL代表取締役社長)が務めた。パネラは以下の5名。すなわち,車載組込みシステム開発に従事する岩井明史氏(デンソー 電子プラットフォーム開発部主幹),半導体開発の上流設計手法としてESL(electronic system level)を取り入れている中村和正氏(富士通マイクロエレクトロニクス 共通技術本部 設計共通技術統括部 プロジェクト課長),コンシューマ・エレクトロニクスにおけるシステム開発でESL活用を支援する旦木秀和氏(ソニー 半導体事業本部 設計基盤技術部門 統括課長),プロセッサ開発に従事しハードウェアとソフトウェアを含めた性能評価に詳しい松本祐教氏(トプスシステムズ 代表取締役),ESL環境を提案するEDAベンダーの牧野潔氏(メンター・グラフィックス・ジャパン ビジネス開発マネージャー)である。
いかに品質の高いモノを作っていくか
「今回のパネル・ディスカッションのテーマには,単にモノをつくるのではなく,いかに品質の高いモノを作っていくかという意味が込められている」という,モデレータの坂本氏からのコメントで討論会が始まった。その中で,牧野氏は,組み込みシステム機器のソフトウェア開発に対するESLの役割として,ソフトウェアも含めたシステム全体の性能解析およびアーキテクチャ検討,ソフトウェアのデバッグを主体にしたレジスタ精度の仮想プロトタイピングを挙げた。
また,中村氏は,実際にドライバやミドルウェアを開発し,ソフトウェアで対応しようとした工程の中でアーキテクチャ上の問題を発見して,2億円相当の節約が出来た事例を紹介した。旦木氏は,ハードウェア設計者の設計効率を上げたり,ソフトウェアの開発を前倒しした例を語った。松本氏は,アルゴリズムとアーキテクチャの狭間で最適解を見つけようとする取り組み例を紹介した。こうした成功事例の一方で,「200ものマイコンを使用する自動車の開発では,ESL活用はそれほど進んでいない」(岩井氏)ことも明らかになった。
牧野氏は「TAT短縮という考え方よりも,あらかじめ決められている製品出荷に間に合わせる工程の中で,いかにぎりぎりまで意思決定を遅らせることができるのかが重要だ」という指摘も行った。これに対しては,「より高い性能や品質を見極めようとする考え方が重要」(松本氏),「モデリングに必要となる期間をどう解決するのか」(中村氏),「モデリング・コストを含めた事業の成功を見積もる用途に使えることが望ましい」(旦木氏)という意見が述べられた。
モデリングの理想と現実
モデリングについては,さまざまな側面から議論が繰り広げられた。アーキテクチャ検討用のモデリングはかなりの負担になっている。「さまざまなアーキテクチャの中からベストな解を選択する」ことが理想的だが,現実には,「想定したアーキテクチャで性能破綻が無いことを確認するのに留まっている」(旦木氏)。また,「ソフトウェア先行開発やソフトウェア統合など,目的別に精度の異なるモデルを準備しなくてはならない」(中村氏)という現状もある。
このような中で「TLM 2.0がつい最近標準化された」(牧野氏)。これでやっとEDAツール間で互換性のあるモデルが開発できる前提が出来た。「標準化されたおかげで,モデリングを支援するツールも出てきた」(同氏)。ただし,「目的によっては使える程度」(岩井氏)という意見も出た。「車載機器のソフトウェアを細分化し,限られた明確な目的があり,それを実現するツールとモデルがあれば使える」(同氏)。
また,「正常動作のモデリングは可能でも,エラー処理などを含めたモデリングが難しく,モデルのデバグが必要なようでは,本末転倒になってしまう」(旦木氏)という指摘があった。「モデルのプログラマーズ・ガイドはそこまで細かく指定していない」(牧野氏)や,「OSCIは言語仕様のみを規定しており,バスや各コンポーネントのモデリング・ガイドラインが存在しない」(中村氏)という声も上がった。「EDAベンダーの枠を超えて,業界としてインフラが整理されるべきだ」ということで,パネラ間で意見の一致が見られた。
組織や人材についても議論
モデレータの坂本氏が「日本の電子産業が生き残るためには,組み込みシステム機器が競合力のある形で開発できることが求められている」と述べたのをきっかけにして,ツールだけでなく,開発するための体制や組織,スキルなどにも議論は及んだ。マイコンのビット数も少なくソフトウェアのサイズも小さかった時代は,ハードウェア開発とソフトウェア開発が兼任されていた。
しかし,最近のように組み込みシステムが大規模・複雑化すると,専門化せざるを得ず,配属時から分業化されている。このため,「お互いの文化が分からず,問題となる場合も出てきている」(岩井氏)という。分業体制となっているために,「本当の意味で一体となっているとは言えない」(旦木氏)という指摘があった。一方で,「ハードウェア設計者の言葉を検証担当者がモデリングし,ソフトウェアでも使える形に翻訳する。これによって,異なる文化を持つ組織間でコミュニケーションが可能になった」(中村氏)という一つの解と思われる経験が披露された。
分業体制に対しては,「システム・アーキテクトという役割の人を配置させるべき」(松本氏)という意見や,「欧米的ではあるがドキュメント化で分業の壁を乗り越え,その上で日本人が得意とする調整が行える仕組み作りが大切」(岩井氏)という意見が出た。論理合成技術が出現した時も模索状態からスタイルの確立へと推移したように,「ESLも確実に実績が増えてきている。そのノウハウの蓄積が大切」(牧野氏)であり,「ESLを取り入れるならば目的指向が大切」(松本氏)である。
討論会の最後にはまとめとして,「差異化につながる製品づくりができる人たちが増える効果を期待したい」(松本氏),「モノづくりからコトづくりへと変えていくことが日本の組み込み機器システムには不可欠であり,モデル作成の標準化も含めたトータルでの仕組みが欠かせない」(岩井氏),「せっかく各社が集まって議論をしたので,このような議論をJEITAやSTARCで盛り上げて行きたい」(中村氏)といった意見が出された。













