開発したトランジスタの主な構造。図:Science/AAAS
開発したトランジスタの主な構造。図:Science/AAAS
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 米IBM Corp.は,遮断周波数100GHzのグラフェンFET(電界効果トランジスタ)を開発した。2010年2月5日付けの学術雑誌「Science」に論文を発表する。この遮断周波数は,同じゲート長のSi技術によるMOSFETでの最大値に対して2.5倍と大きく,「さらに改善が見込める」(IBM社)という。製造技術上も近い将来の実用化が可能だとする。

 グラフェンは,炭素原子が6角形の網目状につながってできているシート状の材料である。移動度が非常に高いことなどが注目され,半導体メーカー各社がトランジスタなどへの応用可能性を探っている(関連記事)。

 今回,IBM社は2インチのSiCウエハー上に1~2層のグラフェンを1450℃の環境下で形成した。さらにその上に,ソース電極とドレイン電極,ポリヒドロキシスチレンから成る層,10nm厚のHfO2から成る絶縁層,そしてゲート電極を形成し,トップ・ゲート型のFETを作製した。

 このグラフェンFETの最大の特徴は,遮断周波数が高い点。IBM社は,ゲート長を変えたいくつかの試作品を作製した。その中でゲート長が240nmと最短のグラフェンFETは,遮断周波数100GHzを示したという。ゲート長が550nmの場合,遮断周波数は53GHzだった。「これらの性能は,トランジスタのデザインを改善することでさらに向上する見込み」(IBM社)。

 ただし,グラフェンは一般には半導体ではない。つまり,バンドギャップがない。このため,今回作製したグラフェンFETも,オン/オフ比は非常に小さいもようだ。これについてIBM社は,「ロジック回路には使えず,高周波動作が必要なアナログ回路向けの用途に限られる」(同社)と説明する。

 一方で,IBM社は,グラフェンに「バンドギャップを開ける」(同社)研究も行っている。2010年1月21日付けで「nanoletters」誌に発表した論文では,100m~200meVのバンドギャップをグラフェンに持たせることに成功したと発表した。グラフェンのシート2枚を用いたトランジスタで電流のオン/オフ比が常温で100を得られることを確認したとする。