今週火曜日の夜です。翌日に控えたApple社の発表会を前に,日経エレクトロニクスのデスクと議論になりました。デスク曰く,世間のウワサに反して,今回はタブレット型の端末は出ないのではないか。理由は,電子書籍向けのディスプレイ技術が未熟なこと。カラーの電子ペーパーを使うにはまだ早いし,液晶だと電池がもたないのでは。もっといいディスプレイの技術が整ってくるまで,端末を出すのは控えるんじゃないか,と。

 私は反論しました。別に電子書籍専用の端末じゃないんじゃないの。1ユーザーとしては,大画面でビデオやWebサイトを見られるのは単純に嬉しいし,ひょっとしてタッチパネルに大きなソフト・キーボードが出てくれば,原稿だって書けるかも。しかしデスクは首をひねるばかりです。表情から推測するに,これまでのタブレット型パソコンの映像が脳裏に浮かんでいたのでしょう。無理もありません。タブレット型パソコンと言えば,そのものズバリの「タブレットPC」をはじめ,これまで連敗続きでしたから。

 そういえば,iPodのときも,iPhoneのときも,そうだったなあと思い起こしました。初代のiPodが登場したとき,携帯型の音楽プレーヤーといえばニッチ製品の代名詞でした。Apple社が画期的な新製品を発表すると聞いて胸を躍らせていたのに,出てきたのが音楽プレーヤーだと知ってガッカリしたのを思い出します。iPodの成功のカギとされる音楽配信も同様で,iTunes Music Store以前にはNapsterなどのファイル共有サービスに,とても敵わないとみなされていました。iPhoneが出る前も,インターネットに接続できる携帯電話といえば,iモードがあった日本以外では鳴かず飛ばずだったはずです。

 端から見ていると,あたかもApple社は世間ではダメだと見られている製品ばかりに力を注いできたかのようです。ひょっとしたら本当にそうなのかもしれません。なぜなら,ダメだと言われる製品には大きなチャンスが隠れているからです。新しい分野を目指した製品は,どれもが当初は期待の新星です。ところが,何年も市場が立ち上がらない間に,いつしかダメ製品のレッテルを貼られ,多くのメーカーが市場開拓の意欲をそがれます。そうなれば,こっちのものです。なぜならその製品が売れないのは,元々のコンセプトが悪いのではなく,単にユーザーの期待に見合うだけの品質を実現できていないだけかもしれないからです。

 もちろん,なかなか市場が立ち上がらない製品だけに,ユーザーを満足させるには相当高いハードルを超えねばなりません。けれども高い障壁を乗り越えることができれば,今度はそれが後から来るメーカーを防ぐ壁になります。その先にある大市場を信じて,他社があきらめた道をひたすら突き進むことで,切り開いた市場をほとんど独占できるのです。iPodやiPhoneの成功の裏には,この構図が潜んでいます。今回発表されたiPadが同様な道をたどるかどうかは分かりません。ただ,発表会の様子や実際に触った人の評判を見る限り,これまでのタブレット型パソコンとは違う水準に仕上がっているようです。少なくとも筆者は,かねてからこうした製品を欲しいと思ってきたので,やっぱり買ってしまいそうです。

 世の中は,いつまでたっても立ち上がらない期待の星であふれています。テレビ電話しかり,ホーム・サーバーしかり,家庭用ロボットしかり。今年が元年とささやかれる3Dテレビもその一つです。確かに「アバター」は面白かった。ですが,家庭でテレビを見るのにメガネをかけるかといえば,話は別だと筆者は思います。業界の期待に反して,メガネ付きの3Dテレビが不発に終わる可能性は否定できません。だったとしてもテレビ・メーカーには,あきらめずに夢の3Dテレビを追い続けて欲しいのです。

ニュース(1月25日~29日)