「オンデマンド型の電力供給もありえる」,京都大学の松山氏がエネルギーの情報化を語る

京都大学 大学院情報学研究科 教授 松山隆司氏

  • 蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス
  • 2010/01/13 15:50
京都大学の松山氏
京都大学の松山氏
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 省エネルギーの実現に向けて現在,「エネルギーの情報化」というコンセプトが登場している。家庭やオフィス,工場などで利用するエネルギーを,よりきめ細かく管理するために,情報通信技術と密接に組み合わせるというものだ。なかでも,京都大学 大学院情報学研究科 教授の松山隆司氏の研究グループの取り組みが,先端的な活動として注目を集めている。松山氏に,エネルギーの情報化というコンセプトについて話を聞いた。(聞き手は蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス)。


――松山さんは「エネルギーの情報化」というコンセプトを掲げておられます。どのような発想なのでしょうか。

松山氏 最近皆,『スマートグリッド』と言っている。特に米国の企業が熱心にアピールしている。そうしたものと,僕らがやっていることは,コンセプトがちょっと違うんです。

生活者側からのアプローチ

松山氏 直感的に言うとね,米国の『スマートグリッド』というのは,電力事業者の系統制御から始まろうとしている。米国の電力系統は未整備の部分も多いから,それをもっとインテリジェント化しようという発想でしょう。一方で,僕らが言っている「エネルギーの情報化」というのは,エネルギーの蓄積や流れといったものを,情報として捉えられないかということを出発点にしている。電力会社の系統制御ではなく,まずは家庭やオフィスなど一般生活者のエネルギー・マネージメントから始めようというわけです。

 僕らの手法は,生活者側からのアプローチなので,非常に細かいセンシングが可能です。それは例えば,ユーザーが家庭内のどの機器をいつ,どのように使っているかという情報を把握するといったもの。こうした情報を,非常に細かいサンプルレートで把握するからこそ,エネルギーのマネージメントがちゃんとできると思う。電力系統からでは,細かく見ることはできないだろう。

 こうした家庭やオフィスのエネルギー・マネージメントを実現するためのコンセプトが,「オンデマンド型の電力ネットワーク」です。例えばユーザーが,何らかの家電機器のスイッチをオンにしたら,「100Wの電力をちょうだい」というリクエストがネットワークに向けて発せられる。このリクエストのやりとりは,無線でも有線でもいい。このリクエストを聞いたホーム・サーバーが,100Wの電力を「できるかぎり」がんばって供給する。つまり,「ベストエフォート型」の電力ネットワークというわけです。

 ベストエフォート型の電力ネットワークというのは,電力系統では到底許されません。電力の安定供給を至上命題にしている電力事業者としては,こうしたコンセプトはありえないでしょう。しかし,家の中に閉じた電力ネットワークであれば問題はない。電力系統ときちんとインタフェースをとった,ある閉じた系において,こうした発想は十分成り立つと考えています。電力系統とのインタフェースさえきちんと確保していれば,1戸の家庭だけではなく,マンション全体や,地域単位でオンデマンド型ネットワークを導入することも可能でしょう。

 オンデマンド型にすると,家庭の中からさまざまな電力要求リクエストが寄せられることになります。エアコンとか照明とか。そうした要求に対して,ホーム・サーバーが「どの要求がもっとも重要なのか」ということを,ユーザーの利用形態から類推し,優先度の高い重要なものから電力を供給するように制御します。

――通信の世界では「QoS(クオリティ オブ サービス)」という概念がありますが,それに近いのでしょうか。

松山氏 そうです。いわば,「QoEn(クオリティ オブ エネルギー)」を実行するということになります。
 こうした仕組みがあれば,家庭の省エネルギーは非常にやりやすくなる。例えばあるユーザーが,家庭のエネルギー・マネージメント・システム(例えばホーム・サーバーのようなもの)を使い,「私は電力使用量を50%減らす」というふうに設定する。こうなると,家庭の電力利用は,使用上限をかぶせられたのと同一になる。エネルギー・マネージメント・システムは,この枠を上限として電力を供給するため,絶対に省エネルギーを実現できる,というわけです。

 繰り返しになりますが,この発想は電力会社の系統制御に向けたものではありません。利用するエリアを閉鎖系にして,電力事業者に迷惑をかけないようにします。

 ただ,こうした発想は,将来的には電力事業者にもメリットがあると思っています。家庭や地域の中で,電力の変動が吸収されるため,系の外側からみると,安定的に電力を利用するものに見えるからです。

――オンデマンド型ネットワークを実現するには,どのような取り組みが必要なのでしょうか。

松山氏 まずは一軒の家の制御から初め,その後,徐々に複数の住戸間でエネルギーをやりとりしたり,地域的規模に広げていけばいい。このためには,オンデマンド型エネルギー制御や,QoENのプロトコルの整備が必要です。

 このため現在,二つの国家プロジェクトに関わっています。ひとつはNICTのプロジェクトで,オンデマンド型電力ネットワークのプロトコルや,QoEnについて取り組んでいます。もうひとつはNEDOのプロジェクトで,直流給電を利用した家(いわゆるDCハウス)の実現のための,ハードウエア的な仕組みづくりを行っています。QoEnなどのプロトコルに関しては,世界的に標準化に持ち込むという考えもあります。

――電力マネージメントに新しい発想を持ち込む声が高まる一方で,「エネルギーの管理は安全保障に関わる」として,一定の制限をかけるべきでは,という意見も出ています。

松山氏 かつて通信の世界では,電電公社があり,すべての電話線を支配していました。電電公社が分割民営化する際にも,「誰が盗聴するかわからない。通信は国家が提供するべきだ」として,分割民営化に反対する意見も多くありました。しかし,現状を見てください。通信の世界にはさまざまな企業が参入し,端末も売り切りとなって自由化されました。

電電公社型からの脱却

 ぼくは,電気の世界はまだ「電電公社時代にある」と思っています。でも,これまでの歴史に学べば,インターネットの文化がエネルギー・マネージメントの世界に行くのは自然の流れであり,その流れはもう誰にも止められないでしょう。例えば通信の世界では無線通信が一般に広く利用されるのと,分割民営化がリンクしていた。エネルギーの世界でも例えば「蓄電技術」や「太陽光発電」技術が登場してきたことで,「みんな何かできるんじゃないか」という発想が生まれているわけです。

 でも,その際にはきちんとしたマネージメント技術が必要になる。僕らがやっているのは,その部分というわけです。

 とはいえ,電力事業者に喧嘩を売る気は全くありません。いわば「ウインーウイン」で行きたいと。電力事業者さんには系統制御をどんどん進めてもらいたい。我々は,家庭を出発点に,いろいろやっていきますよと。インタフェースは電力メーターになります。こうした動きが並立していいと思っています。

――米国のメーカーも,ZigBeeなどの無線通信やHomePlugなどの電力線を使った家庭のエネルギー・マネージメントに向けた伝送プロトコル作りを急いでいます。

松山氏 確かに彼らも始めている。しかし僕の理解では,彼らはオンデマンド型電力ネットワークという発想までは無いと思う。やはり家庭の省エネルギーをきちんとやろうと思ったら,こうした発想が不可欠だと考えています。

――米国の企業は,プロトコルの標準化をはじめています。世界を舞台に,熾烈な競争になるところもありそうですね。

松山氏 だからぼくらも,どんどん早くやりたいと思っている。まずは日本の企業が連携して何かを提案していきたいんです。結局は,「エネルギーオンデマンド」というコンセプトが生き残るかどうかだろう。既にコンセプトの特許の取得などを進めています。プロトコルに関しても,まずはTCP/IPをベースに,その上に利用するQoEnプロトコルとして提案しようと思っています。

 僕自身,こういう話はもっとゆっくり進めたかった。ところが周りが急にワーワーと騒ぎだしたので,スピードアップせざるを得なくなったんです。ちょっと残念ですが,がんばって急いでいきますよ。