京都大学の松山氏
京都大学の松山氏
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 省エネルギーの実現に向けて現在,「エネルギーの情報化」というコンセプトが登場している。家庭やオフィス,工場などで利用するエネルギーを,よりきめ細かく管理するために,情報通信技術と密接に組み合わせるというものだ。なかでも,京都大学 大学院情報学研究科 教授の松山隆司氏の研究グループの取り組みが,先端的な活動として注目を集めている。松山氏に,エネルギーの情報化というコンセプトについて話を聞いた。(聞き手は蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス)。


――松山さんは「エネルギーの情報化」というコンセプトを掲げておられます。どのような発想なのでしょうか。

松山氏 最近皆,『スマートグリッド』と言っている。特に米国の企業が熱心にアピールしている。そうしたものと,僕らがやっていることは,コンセプトがちょっと違うんです。

生活者側からのアプローチ

松山氏 直感的に言うとね,米国の『スマートグリッド』というのは,電力事業者の系統制御から始まろうとしている。米国の電力系統は未整備の部分も多いから,それをもっとインテリジェント化しようという発想でしょう。一方で,僕らが言っている「エネルギーの情報化」というのは,エネルギーの蓄積や流れといったものを,情報として捉えられないかということを出発点にしている。電力会社の系統制御ではなく,まずは家庭やオフィスなど一般生活者のエネルギー・マネージメントから始めようというわけです。

 僕らの手法は,生活者側からのアプローチなので,非常に細かいセンシングが可能です。それは例えば,ユーザーが家庭内のどの機器をいつ,どのように使っているかという情報を把握するといったもの。こうした情報を,非常に細かいサンプルレートで把握するからこそ,エネルギーのマネージメントがちゃんとできると思う。電力系統からでは,細かく見ることはできないだろう。

 こうした家庭やオフィスのエネルギー・マネージメントを実現するためのコンセプトが,「オンデマンド型の電力ネットワーク」です。例えばユーザーが,何らかの家電機器のスイッチをオンにしたら,「100Wの電力をちょうだい」というリクエストがネットワークに向けて発せられる。このリクエストのやりとりは,無線でも有線でもいい。このリクエストを聞いたホーム・サーバーが,100Wの電力を「できるかぎり」がんばって供給する。つまり,「ベストエフォート型」の電力ネットワークというわけです。

 ベストエフォート型の電力ネットワークというのは,電力系統では到底許されません。電力の安定供給を至上命題にしている電力事業者としては,こうしたコンセプトはありえないでしょう。しかし,家の中に閉じた電力ネットワークであれば問題はない。電力系統ときちんとインタフェースをとった,ある閉じた系において,こうした発想は十分成り立つと考えています。電力系統とのインタフェースさえきちんと確保していれば,1戸の家庭だけではなく,マンション全体や,地域単位でオンデマンド型ネットワークを導入することも可能でしょう。

 オンデマンド型にすると,家庭の中からさまざまな電力要求リクエストが寄せられることになります。エアコンとか照明とか。そうした要求に対して,ホーム・サーバーが「どの要求がもっとも重要なのか」ということを,ユーザーの利用形態から類推し,優先度の高い重要なものから電力を供給するように制御します。