写真は,RealD社のJoshua Greer社長と筆者
写真は,RealD社のJoshua Greer社長と筆者
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 家庭用の3Dシステムとしてパッケージ・メディアのBD-ROMが2010年半ばに立ち上がるが,それはフルHD帯域を2チャンネル持つ新しい3Dシステムだ。「もう一つの3Dシステム」として放送,IPTV,ビデオ・カメラなどの現行フルHD帯域で,2チャンネルの信号を送る必要性が出てくる。そうしたコンベンショナルなメディアでの3D展開で,ここに来て圧倒的な強みを見せつけているのが米RealD社だ。

 RealD社は,産業用途向けの3D映像の研究専門会社として1980年に設立された。自動車,航空機,医療,地下油田探索,軍事などの分野で成功を収めた後,本命の映画分野に2005年に進出した。全世界50カ国の“RealD方式3D”のスクリーン数は「2009年11月末で4800スクリーン,受注残は5700スクリーン」(同社)という。2008年11月時点ではそれぞれ1600と5000だったから,驚異的に数が増えている。

 同社は,家庭用ディスプレイの1画面に右目と左目用の信号を圧縮するサイド・バイ・サイド方式の特許を持つ。このサイド・バイ・サイド技術,アクティブ・メガネ技術などのパッケージとして,世界の多くのデジタル家電関連会社の賛同を得て,民生機器としてソニー,パナソニック,東芝,日本ビクター,韓国Samsung Electronics Co., Ltd.,そして放送事業者のDirecTVとの提携に成功した。ソニーが提携を発表したスポーツ専門局「ESPN」もRealD社の技術を使うと見られる。その動きは今後,世界の放送業者がフォローする。

 つまり,フルHDを2チャンネル使うBD(Blu-ray Disc)の3Dとは異なり,コンベンショナル帯域のメディア(放送やIPなど)では,RealD方式がデファクト・スタンダード(事実上の業界標準)になるのが確実な情勢だ。この分野では米Dolby社も別の提案をしていたが,動きは聞こえてこない。

 筆者は,RealD社のPresident and Co-FounderであるJoshua Greer氏に独占インタビューした。

――サイド・バイ・サイド方式は既に日本の「BS11」でも採用されていますが,これはパブリック・ドメインではないのですか?

 RealD社のIP(知的所有権)です。われわれはもともとこの技術を持っていたStereo Graphics社を1998年に買収しました。それはとてもラッキーなことでした。以後,サイド・バイ・サイド技術は大切に育ててきました。

――しかし、帯域はいわゆる「ハーフHD」ですね。現行の放送帯域(フルHD)で左目用と右目用の映像を送るためには,必然的に画素数を落とさないといけない。片目当たりでは,フルHDの半分の画素数になるわけですね。そのような条件の下で,どのように画質を確保するのでしょうか。

 確かに問題は放送系(ケーブル,衛星)の帯域が狭いことで,ここに注目しているわけです。単に横に並べるのではなく,リサイズ・フィルタにわれわれの技術を入れました。2段階で画質を進化させます。まずはベーシック・レイヤーです。ロスレスで垂直・水平方向に圧縮します。技術的にエレガントな圧縮です。この画質はとても良く,ハリウッドのスタジオや放送局,デジタル家電メーカーに高く評価してもらいました。それが今回の提携に結びついています。現行の放送帯域にそのまま通せます。

――次の段階とは?

 エンハンス・レイヤーです。解像力を上げるため,高域信号をサイド・バイ・サイドで伝送します。しかし,これを送るためには放送側の工夫も必要なので,それなりの時間がかかると見ています。つまりわれわれは,二つのサイド・バイ・サイド画面,合計4面を用意しているのです。

――直線ではなく斜め方向にリサイズ(市松模様配置)すると,「水平・垂直方向の感度は高いが,斜め方向は低い」という人の目の特性を利用することで,高効率で圧縮でき,非常に画質が高まるのでは?

 はい。理論的にはその通りです。しかし,低いビット・レートで破綻が出ることが分かり,これは高いレートで処理するプロフェッショナル用に限定することにしました。放送局での3Dマスターなどに応用する技術,もしくは将来的にハイエンドのデジタル家電製品に入る技術です。

――フォーマット的にはデジタル家電業界と放送業界を実質的に押さえましたが,今後,どのように3D世界を発展させるのですか。

 “RealDライブ”というリアルタイム3D送信を考えています。放送網でサイド・バイ・サイドでコンサートなどの3D信号を流し,それを世界各地のデジタル映画館などの施設で、上映するのです。まだ家庭用3Dテレビのインフラがすぐには整わないので,このデモンストレーションは有効だと思います。エンハンス・レイヤー付加は検討しています。パーソナルでは,デジカメやムービーなどでのUGC(user generated content:ユーザーが生成したコンテンツ)に熱く期待しています。これもサイド・バイ・サイド方式により,現行の帯域で撮れますから,活用の勝手が良いですね。

――「3D版YouTube」というわけですね。もう一つ,ソニーのリリース文には「RealDの立体映像フォーマット,アクティブ方式/パッシブ方式の3D視聴用メガネの製造に関するノウハウ,その他の関連技術のライセンスを受ける」とあります。アクティブ/パッシブのメガネ技術もRealDのIPなのですか。

 われわれのアクティブ・メガネは,ゴーストレス,視界が広い,スイッチングが速い,といった利点があります。契約したデジタル家電メーカーにはそのノウハウをお渡しします。3Dはまだスタートしたばかり。われわれには,それを最高の品質に育てることにお手伝いする責任があります。