新興国で電動車両開発の標準ツール「MATLAB」の導入進む,米MathWorks社
The MathWorks, Inc. Jack Little氏
自動車の電子機器開発における事実上の標準ツールである米The MathWorks, Inc.の「MATLAB/Simulink」。このツールの導入状況をみれば,企業の電動車両への開発姿勢が見えてくる。その使いこなしの得手,不得手が電動車両開発のスピードに直結するからだ。そこで,The MathWorks社の創業者の一人でPresidentのJack Little氏と,日本法人 社長の梨澤利隆氏に,電動車両開発に傾注しつつある新興国市場の状況や,同社の今後の戦略などについて話を聞いた(図1)。(聞き手は清水 直茂=日経エレクトロニクス)
中国やインドなどの新興国におけるMATLAB/Simulinkの導入状況を教えてほしい
PresidentのLittle氏 現状でいえば,日米欧と比べて導入は遅れている。利用する企業も,協業相手の日米欧の自動車メーカーやサプライヤの現地法人が使うから自らも使う,といった状況だ。
けれども,じわじわと導入例は増えている。なにより,いったん導入を決めると,その後の対応は非常に速い。東風汽車によるハイブリッド・バス向けの電池管理システムの開発事例がその好例だ。東風汽車はもともと,電池管理システムの開発をサプライヤに任せていた。だが今後は電池管理システムが電動車両開発におけるコア技術だと考え,自社開発を決断した。開発に携わった人員は6人。彼らがMATLAB/Simulinkを使いこなし,コンセプト作りから実装までをわずか18カ月で終えた。最終的なソース・コードは10万行を超えるそれなりに大規模なものだ。東風汽車は,開発中のハイブリッド車にもMATLAB/Simulinkを使っている。契約上,顧客の具体例を挙げられないがインドでも同様の企業がある。今後ますます広がっていくだろう。
MATLAB/Simulinkは,自動車業界をはじめ,航空宇宙業界などで導入が進んできた。他の業種への導入事例は増えているのか
Little氏 最近,エネルギー関連技術の開発への適用例が増えている。例えば風力発電システム。風力発電機の羽根に相当する「ブレード」や,ブレードの回転エネルギーを電力に変換する機能などを有する「ナセル」,これらを支持する「タワー」の物理モデルに加えて,ナセルに搭載するコントローラ・システム,さらにシミュレーションに必要な風力の入力値などをMATLAB/Simulinkを使って実現できる。
燃料電池への適用事例もある。燃料電池における課題の一つが温度制御のための環境管理。これを実現するため,ある企業は温度制御システムや,電力負荷を予測するシステムをMATLAB/Simulinkで開発した。スマートグリッドといった新しい分野に対しても,導入事例が増え始めている。電力事業者が,発電した電力をどこに送電するのかといったシミュレーションに活用する事例もある。こうした事例では,我が社の標準ツールを活用して実現している。
適用事例が広がっているのはなぜか
Little氏 MATLAB/Simulinkを使えば,開発効率と品質の向上を共に実現できるからだ。開発効率という面では,設計段階において,物理モデルと制御モデルを共に一つの環境で設計できることが大きい。我々が「マルチドメイン」と呼ぶ,六つの領域に対して各種ツールを用意してある。六つとは「連続時間」「離散時間」「離散イベント」「ステートマシン」「物理モデル」「テキストベース」である。これら六つのドメインに,各種ツールが対応するので,物理モデルも制御モデルも一つの環境下で設計できる。
さらに,モデルベース開発(MBD:model based development)を組み合わせることで,開発全体の効率を格段に上げられる。MBDとは,仕様をシミュレーション可能なモデルで表現し,各工程内でモデルの検証と修正の繰返しを実現する開発手法である。
MBDを使えば,検証の反復を開発の初期段階で行え,手作業のコーディングが削減できる。つまり,開発工数が減らせる。加えて,早期に検証できるので品質の向上が図れる。このほか,専門分野を超えたコラボレーションが図れることも重要な点として挙げたい。さまざまな領域の設計者が,一つの環境下で開発を進められるため,すべての開発者が結びつく。
日本では設計,米国では汎用品
日米でMATLAB/Simulinkの使い方に違いはあるか
Little氏 日本企業の場合,企業単体での活用というよりも,複数の企業間における開発を合理化するために活用している事例が多い。北米や欧州各国に比べて,OEMとサプライヤの結びつきが強いからだ。活用領域も,日本では“設計”がメインだ。設計したモデルやシミュレーションの結果などは,企業の資産として扱われている。一方,米国では設計だけというより,もっと身近なツールとして使われている。「Excel」のようなイメージだ。データ解析や予測などに使うケースも米国では多い。
日本市場では今後どんな展開を考えているのか
日本法人 社長の梨澤氏 大きく二つのことに注力していきたい。一つは,自動車以外の業界にビジネスを拡大すること。例えば金融業界である。米国では,MATLAB/Simulinkがファイナンス分析によく使われている。これまで日本では,こうした分野の人々にアプローチしてこなかった。
もう一つは,コンサルティング・サービスの強化である。製品を買ってもらっても,そこで多くのビジネスが終了していた。今後はコンサルティング部隊を立ち上げ,顧客にもっと踏み込んだサービスをしていきたい。この二つを推し進めるため,2009年7月に新たに日本法人を設立した。それまで,日本の販売代理店はサイバネットだった。
もちろん,自動車業界は今後も重要な顧客だ。特にJMAABとは非常に強い関係を持っている。JMAABなどを通じて引き続き,日本の自動車業界のニーズに応えていく。厳しい要求が多いが,これに応えていくことは我々の発展にとっても重要なことだ。













