LED照明の市場が立ち上がり、有機EL照明の開発が進むなど次世代照明が注目を浴びる中で、新素材の採用によってさらに性能を上げたり、フレキシブル性を持たせてユニークな用途を開拓しようという機運が高まってきた。
テーマサイト「新素材」の2009年ランキング1位には、白色LED用の新蛍光体材料としてサイアロン系を実用化したという記事が入った。従来のシリケート系に比べて,温度上昇に対して輝度と色の変化が小さくなる。液晶テレビのバックライトやLED照明に向けに数十億円/年の事業規模を見込んでいる。
▼ 2009年「新素材」記事ランキング
ランキング5位は、ITOの代わりに高導電性の透明樹脂電極を用いて,フレキシブルな有機EL照明パネルを試作したという記事である。フレキシブル化することによって新しいコンセプトの製品が実現できるが、そのためには樹脂フィルム上に低温で成膜する必要がある。しかし、ITOは低温プロセスでは導電性が上がらない問題があった。今回の試作では、PEDOT/PSS(3,4-エチレンオキシチオフェン/ポリ4-スチレンスルホネート)系の透明樹脂を使うことにより、「導電性が約6倍に高まった」という。
次世代照明向けに限らず、PEDOT/PSS系材料の研究が進展した一年でもあった。例えば、ブリヂストンは,「SID Display Week 2009」のシンポジウムで講演し,同社の電子ペーパー向けの透明電極として,ITOに代えてPEDOT/PSSの実用化に見通しが付いたと発表した(Tech-On!関連記事1)。山梨大学も、透過率89%で電導度を443S/cmまで高めたPEDOT/PSS薄膜を作製、これまで発表されているPEDOT/PSSの中では,透明度を90%近く高めたものとしてしてはもっとも高い導電性を達成したという(Tech-On!関連記事2)。今後,ITOの代わりにPEDOT/PSS系を使う動きが加速するだろう。
カーボン・ナノチューブ(CNT)やグラフェンといったカーボン系新素材を電子デバイス向けに使う検討が着実に進んでいるということを印象付けたのが、ランキング4位の記事で紹介された「国際ナノテクノロジー総合展(nano tech 2009)」における富士通のブースであった。
これまでカーボン系といえばCNTをチャネル層に使ったトランジスタの研究が多かったが、グラフェンなど多様なカーボン材料が使われ始めている。グラフェンは、ベンゼン環が蜂の巣状につながった6員環シートだが、これをチャネル層に用いたトランジスタとすることによって、キャリア移動度が高く、製造しやすいメリットがあるという。
CNTについても、トランジスタだけでなく、バンプや配線に使うといったより実用化を意識した研究も目立つようになった。バンプに使うと、熱やメカニカルなストレスを受けてもLSIが破損しにくくなるほか、放熱用やインダクタ向けとしても可能性がある。配線向けとしては、微細化が進んで均一な配線がうまく作れなくなってきた銅(Cu)の代替材料となるのではないかと期待されている。