図1 凸版印刷のAR機能付き店頭端末(写真:凸版印刷)
図1 凸版印刷のAR機能付き店頭端末(写真:凸版印刷)
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図2 サンプル商品をカメラにかざすと,商品説明などが現れる(写真:凸版印刷)
図2 サンプル商品をカメラにかざすと,商品説明などが現れる(写真:凸版印刷)
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図3 SMCとスカイアンドロードが開発した「ショーウインドウ体験型ディスプレイ」の様子。(写真:スカイアンドロード)
図3 SMCとスカイアンドロードが開発した「ショーウインドウ体験型ディスプレイ」の様子。(写真:スカイアンドロード)
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図4 フルタニ産業の「魔法の鏡」のイメージ写真。写真のように,長袖のシャツを着ている時に,ノースリーブの服を試着すると,腕が自動的にCG映像になるという。(写真:フルタニ産業)
図4 フルタニ産業の「魔法の鏡」のイメージ写真。写真のように,長袖のシャツを着ている時に,ノースリーブの服を試着すると,腕が自動的にCG映像になるという。(写真:フルタニ産業)
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 センサ技術を用いながら,コンピュータ経由の情報を現実の視界などにリアルタイムに重畳する技術「AR(augmented reality,拡張現実感)」が,街中で実際に使われるようになってきた(日経エレクトロニクスの関連特集記事)。デジタル・サイネージ(電子広告)による商品説明,店のショーアップ効果,商店街の店舗案内,などを強化するのが狙いである。

商品情報などを重畳

 国内で取り組みが早かったのは,凸版印刷だ。同社は2009年10月から,イトーヨーカドーの3店舗(大宮店,津田沼店,武蔵小金井店)にて,電子チラシと連動させた,自動販売機風の店頭端末の実証実験を始めた(図1)。この端末は,AR機能やデジタル・サイネージ機能,商品陳列機能などを備えている。

 実験の内容は例えば,凸版印刷の電子チラシのWebサイト「Shufoo!」にある,各店舗の電子チラシの無料サンプル品情報に付いているアクセス用QRコードを携帯電話機などで読み取るなどして会員登録を済ませた後に,店舗に行って会員であることを示すQRコードを店頭端末のカメラにかざすと,広告のサンプル品が端末から出てくる。さらに,サンプル品にはARのマーカーが印刷されており,それを店頭端末のカメラにかざすと,詳しい商品説明などがディスプレイの映像に重畳される,というものである(図2)。

デパートでお客を異世界に引き込む

 一方,2009年12月4日に,店を訪れる顧客に新しい体験を提供する狙いで「AR(augmented reality:拡張現実感)技術を用いたショーウインドウ体験型ディスプレイ」を提供していると発表したのが,ソニー・ミュージックコミュニケーションズ(SMC)とスカイアンドロードである。

 このディスプレイの前に人が立つと,顔認識機能を用いてその人の周囲に映像をリアルタイムに重畳する(図3)。「あたかもお客様が画面の中の不思議の楽園の世界に引き込まれたかのような疑似体験をしていただけます」(SMCなど)。フランスTotal Immersion社製のARの開発キットを基に,このディスプレイを作製したという。

 ディスプレイは既に12月2日(水)から,東京都新宿区にある伊勢丹新宿店で展示されている。具体的には,同店の新宿通りに面するショー・ウィンドウと,本館6階の子供服特設コーナー。同店のクリスマス企画「HOW TO MAKE WONDER CHRISTMAS」の一環で,12月25日まで続けられる。

洋服の「仮想試着」や店舗案内に利用

 フルタニ産業は2010年2月に,大阪市の地下鉄・四ツ橋駅,心斎橋駅,長堀駅をつなぐ地下街「クリスタ長堀」で,同社が開発した「魔法の鏡」を用いた服の試着や店舗案内の実験を実施する。

 この魔法の鏡は,フルHDの液晶ディスプレイに複数のカメラを付け,ディスプレイの前に立つ顧客の映像に,服の映像を重畳してあたかも試着しているかのように見せるもの(図4)。顧客の体型を測定し,その体型に合うように服の映像を加工する機能も備えている。試着する服は,実際にクリスタ長堀の各店舗で扱っている商品の映像で,顧客の体型に合うサイズの服が置いてあるかどうかも分かる。

 試着する服は,インナー,パンツ/スカート,シャツ,ワンピース,セーター,コートなどを計6着まで重ね着できる。試着して気にいった服があれば,そこから実際の店舗に行って商品を購入できる。異なる店舗の商品を組み合わせて試着することもできるため,「実際の店舗をいちいち回らずに1カ所で,しかも店舗ごとでは選べない服の組み合わせを試せる」(フルタニ産業)とする。

 ただし,この魔法の鏡は,現時点では厳密にはARではない。ディスプレイの前に立った顧客の映像をまず撮影し,その静止画に洋服の映像を重畳している。つまり,リアルタイムの重畳ではないからである。それでも,「2010年10月には重ね着できる枚数を9着に増やし,2011年10月以降は試着した様子を横から見た姿や後ろ姿の映像も見られるようにする」(同社)なと,序々にARに近づけていくという。

 服などの映像をリアルタイムで重畳できる服の仮想試着技術は,例えば,ドイツFraunhofer Instituteが2009年10月のCEATEC Japan 2009において,「Virtual Mirror」という名前で実演を披露している。実用化は,遠くない将来に可能になりそうだ。