Magic Mouseのタッチ・センサ電極は約4.0mm角の電極素子を縦方向に15個,横方向に10個,約4.5mm間隔で並べたような構成になっている
Magic Mouseのタッチ・センサ電極は約4.0mm角の電極素子を縦方向に15個,横方向に10個,約4.5mm間隔で並べたような構成になっている
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 日経エレクトロニクス分解班による,米Apple Inc.のタッチ・センサ内蔵マウス「Magic Mouse」の分解レポートを続ける。Magic Mouseは筐体の上面に組み込んだタッチ・センサで指の動きを検知して,iPhoneなどで使われる「ジェスチャ操作」に対応する新発想のマウスである。今回はMagic Mouseの心臓部となる,タッチ・センサの電極部の構成について,タッチ・パネルに詳しい技術者と共に検討した。

 Magic Mouseのタッチ・センサ電極は,縦横に格子状に電極を配置し,指の接近によって容量分布が変化する位置をマトリクスで検出する,相互容量検出方式を採用すると見られる。Magic Mouseでは現在のところ2点までの同時検出しか使っていない(第1回参照)が,技術的には「3点以上の同時検出も可能な方式」(同技術者)という。

 Apple社はiPhoneなどジェスチャ操作に対応したタッチ・パネルで,これまでも相互容量検出方式を採用してきた。だが,Magic Mouseのタッチ・センサ用にフレキシブル基板(FPC)上に形成された電極の形状は,あまり例をみないものだった。約4.0mm角の電極素子を縦方向に15個,横方向に10個,約4.5mm感覚で並べたような構成になっている。「他社のタッチ・パネルも含めて見たことがない構成。タッチ・スイッチの電極素子を,縦横に並べたように見える。iPhoneなどの電極構成とも全く異なる」(技術者)。

 Magic Mouseのタッチ・センサのFPCを検知面(マウスの上面)側から見ると,一つの電極素子は,「工」形の電極と,二つの「E」形電極を組み合わせたような形状になっている。手元のテスタで測ったところ,電極に印可された電圧は約1.65Vと低い。こうしたことから,技術者は「指の幅は約15mmなので,4.5mm間隔で素子を並べて,常に3~4素子で指の位置を検知できるようにしているようだ。電極の面積を大きめにとったブロックを間隔を開けて配置することで,検知精度の確保と感度の向上を同時に狙っているのではないか」と推測する。Magic Mouseの上面カバーの厚みは約2.45mmもあり,「タッチ・センサにとってはかなり厳しい条件」(技術者)であることも,そう推測する理由の一つという。

 例えば,Apple社はMagic Mouseの前モデルである「Wireless Mighty Mouse」でもタッチ・センサを組み込んで,左右クリックを検知し分ける用途に使っている。このマウスでは,のこぎり状の電極を組み合わせて,マウスの前方部の左右に,一組ずつ組み込んでいる。指が右にあるか,左にあるかの検知だけが目的なので,電極面積を大きくとれる。これに比べると,Magic Mouseでは指の細かい位置や動きを検出する必要があり,一素子あたりの電極面積は相対的に小さくなり,条件としては厳しくなる。

 電極を詳しく見ると,「工」形の電極は,検知面側に配線を通して,縦方向に接続され,コネクタ電極部近くで10本が束ねられ,貫通配線を通してFPCの裏側に導かれる。

 「E」字電極には貫通配線を設けており,FPCの裏側を通して隣の素子に接続して,横方向につながる。この配線はFPCの裏側を縦に通る配線を経由して15本に束ねられ,コネクタ電極部まで導かれる。つまり信号線の本数は,縦方向が10本,横方向15本で,合計25本となる。コネクタの電極数は28本で,残りの3本は両サイドと中央に接地線を通すために使われている。

 FPCの裏側にはさらに工夫があり,各電極素子の裏側に「二」形の電極が形成されている。これは接地線に接続されていた。「なぜこのような形状を選んだのかという意図や効果ははっきり分からないが,目的は雑音対策だろう。SN比を良くして感度を確保する狙いがあるのではないか」(技術者)。

 雑音対策と思われる細かい工夫は他にもある。コネクタ電極部に導かれる配線部分で,縦方向の信号線10本の配線の裏側に,1本ずつ接地線をわざわざ通している。「雑音対策だとは思うが,縦方向の信号線にだけこういう処理をしている理由はよく分からない」(技術者)。

 このほかにも,コネクタ電極部の近辺で接地配線が格子状に組まれていたり,電極素子間を接続する配線に,どこにもつながらない枝配線が何カ所もあったりと,技術者がその意図にクビをひねる個所が多数,見受けられた。「細かい工夫が多く,Apple社らしい凝った設計で興味深かった」(技術者)。

Magic Mouse分解 第1回
Magic Mouse分解 第2回
Magic Mouse分解 第3回
Magic Mouse分解 第4回

【お知らせ】この分解調査の詳細は日経エレクトロニクス 2009年11月16日号 NEレポート「Apple 社のMagic Mouseを分解,特殊なセンサで感度向上か」に掲載しています。

筐体上カバーに張り付けられたタッチセンサFPCを剥がして,検知面(表)側から見たところ。電極の一つの素子は「工」形の電極と,二つの「E」形電極を組み合わせたような形状になっている。「工」形の電極は,検知面側に配線を通して,縦方向に接続されている。「E」字電極は,中央の電極に貫通配線を設け,FPCの裏側を通して隣の素子に接続して,横方向につながる
筐体上カバーに張り付けられたタッチセンサFPCを剥がして,検知面(表)側から見たところ。電極の一つの素子は「工」形の電極と,二つの「E」形電極を組み合わせたような形状になっている。「工」形の電極は,検知面側に配線を通して,縦方向に接続されている。「E」字電極は,中央の電極に貫通配線を設け,FPCの裏側を通して隣の素子に接続して,横方向につながる
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Wireless Mighty Mouseのタッチ・センサ電極。のこぎり状の電極を組み合わせて,マウスの前方部の左右に,一組ずつ組み込んでいる
Wireless Mighty Mouseのタッチ・センサ電極。のこぎり状の電極を組み合わせて,マウスの前方部の左右に,一組ずつ組み込んでいる
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タッチセンサFPCを,裏面から見たところ。「二」形の電極は接地線と接続されている。その中央に小さな四角が二つつながった配線があるが,これは「E」字電極からの貫通配線と接続している。写真中央の縦の配線は,横方向の信号線をコネクタ電極に導く配線
タッチセンサFPCを,裏面から見たところ。「二」形の電極は接地線と接続されている。その中央に小さな四角が二つつながった配線があるが,これは「E」字電極からの貫通配線と接続している。写真中央の縦の配線は,横方向の信号線をコネクタ電極に導く配線
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コネクタ電極部に導かれる配線部分を検知面側から見たところ。裏側に通る縦方向の信号線10本の配線の上だけに,1本ずつ接地線をわざわざ通しているのが分かる(向かって右側)。接地配線も,余った個所全面に敷くのではなく,途中で格子状に組んだりしているが,意図はよく分からない
コネクタ電極部に導かれる配線部分を検知面側から見たところ。裏側に通る縦方向の信号線10本の配線の上だけに,1本ずつ接地線をわざわざ通しているのが分かる(向かって右側)。接地配線も,余った個所全面に敷くのではなく,途中で格子状に組んだりしているが,意図はよく分からない
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コネクタ電極部に導かれる配線部分を裏側から見たところ
コネクタ電極部に導かれる配線部分を裏側から見たところ
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