日経エレクトロニクス分解班が行った米Apple Inc.のタッチ・センサ内蔵マウス「Magic Mouse」の分解レポートを続ける。Magic Mouseは筐体の上面に組み込んだタッチ・センサで指の動きを検知して,iPhoneなどで使われる「ジェスチャ操作」に対応する新発想のマウスである。今回はおもに回路基板を検討する。
Magic Mouseは大きく五つの部品で構成される。上カバー,上フレーム,回路基板,下フレーム,下カバーである。ポリカーボネートと思われる白い樹脂製の上カバーは,厚さが2.45mm。裏側にはフレキシブル基板製のタッチ・センサ電極が張り付けられている。その面積は全体の約80%にあたる。
上カバーを支えるフレームは,筐体全体をクリック・スイッチとして使えるようにするための,ヒンジ機構の一部を兼ねる。上カバーと上フレームはタッチ・センサ電極を挟んで両面テープで固定されていた。ヒンジ機構のもう一方は,電池ボックスを兼ねる下フレームが担う。下フレームと下カバーはやはり両面テープで固定される。
下フレームにネジで固定された回路基板は「コ」の字状で,電池ボックスの電極も基板にハンダ付けされていた。ただし,クリック・スイッチとなるオムロン製のマイクロ・スイッチに関しては別基板になっている。クリックによってかかる応力で,回路基板が損傷を受けないように配慮されている模様だ。
クリック・スイッチ用の別基板にはバネ式端子が取り付けられており,Al合金製の下カバーと接触するようになっている。「手の平を接地に落とすことで,タッチ・センサの感度低下を防いでいるのだろう」(タッチ・パネルに詳しい技術者)。Al製の下カバーはマウスを使うときにちょうど,親指と薬指でつまむ部分になるため(連載第2回参照),これをAl製にしたのは,デザイン面だけの要請ではないのかもしれない。
回路基板をもう少し詳しく見ていこう。基板の前側には,トラッキング用のレーザ・センサ関連とクリック・スイッチ用別基板で占められる。Magic Mouseの電源スイッチはスライド式であるが,実際は板金部品をスライドさせ,基板裏面に取り付けられた電源用のマイクロ・スイッチを押し込む構成になっている。
回路基板の後ろ半分には,タッチ・センサ電極と接続するコネクタと数個のICが取り付けられている。基板裏側の最も大きなIC(8.0×9.1mm2)は米Broadcom社製のマウス/キーボード用のBluetooth LSI「BCM2042」。その隣の8端子のICは台湾SST社の2Mビット・シリアル・フラッシュ・メモリである。また,基板をよく見ると,基板の端にBluetooth用のアンテナのパターンが組み込まれているのが分かる。
基板表側のコネクタは28端子。コネクタの幅は約14mmである。端子間隔0.5mmピッチの製品と思われる。その隣にある4.5mm角のICは,配置や一部のパターンを追う限り,「タッチ・パネル・コントローラと見て間違いない」(タッチ・パネルに詳しい技術者)。
だがこのICの型番「343S0487」や刻印だけなどからは,製造メーカーを割り出すことはできなかった。今回のMagic Mouseと同様にジェスチャ操作を採用する「iPhone 3GS」や「MacBook」が採用しているタッチ・パネル・コントローラ「BCM5974」(Broadcom社製)とも型番などが一致しない。Apple社はMagic Mouseで,BCM5974とは別に,新たな専用チップを開発した可能性がある。
【Magic Mouse分解 第1回】
【Magic Mouse分解 第2回】
【Magic Mouse分解 第3回】
――次回へ続く――
《訂正》コネクタの仕様に関して,一部事実誤認が判明しました(第3回参照)ので,推測に基づくコメントを削除し,表現を修正しました。本文は既に修正済みです。
【お知らせ】この分解調査の詳細は日経エレクトロニクス 2009年11月16日号 NEレポート「Apple 社のMagic Mouseを分解,特殊なセンサで感度向上か」に掲載しています。