日経エレクトロニクス分解班は,米Apple Inc.が2009年10月下旬に発売した新発想のマウス「Magic Mouse」を,分解調査した。Magic Mouseは筐体の上面をタッチ・センサで覆い,指の動きを検知するようにして,ボタンやスクロール・ホイールを排したほか,同社のiPhoneなどで採用する「ジェスチャ操作」に対応している。
指でのジェスチャ操作を前提にするため,Magic Mouseは一般的なマウスと比べると,かなり「平べったい」形状になっている。サイズは115×58×22mm3。一方,Apple社が従来発売していた「Mighty Mouse」のサイズは113×62×32mm3である。縦横はほぼ同じで,高さが約2/3になっているのが分かる。
平べったい独特の形状のMagic Mouseを使ってみたところ正直言ってかなりの違和感を感じた。なんだか持ちにくいのである。これについて,ユーザー・インタフェースを開発するソフトディバイスの八田晃氏は,「Apple社が前提としているマウスの持ち方が,一般的な持ち方と異なるから」と解説する。
八田氏によると,一般的なマウスの多くは,手の平をマウスの筐体全体に被せて載せるようにマウスを持つことを前提に設計されているという。こうした持ち方をする場合は,肘から先の全体を動かして,マウスを動かすことになる。
ところがMagic Mouseではこの持ち方が難しい。マウスの高さが足りないため,手の平が浮いてしまうからだ。八田氏は「もともとApple社は親指と薬指で筐体の側面をつまむように持つ持ち方を,前提にしている節がある。Magic Mouseはそれを前提に設計されたのではないか」と推測する。「筐体側面が,下に向かって絞り込むような形状になっているのも,こうした持ち方に合っている」(八田氏)。
親指と薬指で筐体をつまむように持つ場合,ほとんど手首と指先の動きだけでマウスを動かすことになる。また,手の平が浮いているので,マウスを握ったままで人差し指と中指を動かせる範囲が広くなる。これは「指をジェスチャ操作に使う操作手法になじみやすい」(八田氏)。
Magic Mouseを使ってみてもう一つ気づいたのは,動きが「重く感じる」こと。前モデルであるMighty Mouseと使い比べてみるとそれがよく分かる。だが,Magic Mouseの重さは単三形乾電池2本込みで105g。同132gのMighty Mouseよりむしろ軽いのである。
そこで両マウスの「滑りやすさ」を簡単な実験で確かめてみることにした。大きめの樹脂ボードの上に,二つのマウスを並べて,徐々に傾けるのである。果たして,Mighty Mouseの方が早く滑り出したではないか。念のため,Mighty Mouseから電池を1本抜き,重さをほぼ同等(106g)にしたうえで,同じ実験を行ってみたが,結果は同じだった。ほんのわずかの違いだが,Magic Mouseの方が滑りにくいようだ。このことが,動かしたときに「重く」感じさせていたのだろう。
この理由について八田氏は「Magic Mouseではマウスから手を離し,外付けトラックパッドのように手で保持せずに指だけ触れて使うような状況もあり得る。こうした使い方を考慮して,通常よりやや滑りにくくしたのではないか」と推測する。
――次回へ続く――
【お知らせ】この分解調査の詳細は日経エレクトロニクス 2009年11月16日号 NEレポート「Apple 社のMagic Mouseを分解,特殊なセンサで感度向上か」に掲載しています。