図1 音楽ホールなどは,残響を利用することで豊かな音色を実現しているという。今回の技術では,音楽ホールのような残響の再現を目指す。
図1 音楽ホールなどは,残響を利用することで豊かな音色を実現しているという。今回の技術では,音楽ホールのような残響の再現を目指す。
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図2 直接音成分と残響音成分の分離を説明するスライド。
図2 直接音成分と残響音成分の分離を説明するスライド。
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 日本電信電話(NTT)は,音楽ホールなどで録音した2チャネルのステレオ音源から,直接音成分と,壁の反射などによって生じる残響音成分を分離し,5.1chサラウンド音源などとして編集する技術「Revtrina」を開発した。一旦,従来のステレオ録音環境で録音した音源を今回の技術を利用すれば,例えばフロントのスピーカーから直接音を出力し,周辺のスピーカーから残響音を出力するといったサラウンド音源に再編集できる。

 音楽ホールなどで2チャネルのステレオ録音を行うと,直接音成分と残響音成分が混ざった状態で録音される。今回の技術では,この元の音源について,ある音と過去の音の相関関係を調べ,直接音成分か残響音成分かを判断し,分離する。それぞれの音について周波数や音量の減衰(時間変化)を比較し,相関関係がなければ直接音成分,相関関係があれば残響音成分と判断するという。音楽ホールやライブハウス,舞台など,残響が生じる環境の音であれば,今回の技術を使ったサラウンド化が可能である。2チャネルのステレオだけでなく,モノラルの音源も編集できるとする。

 ステレオ信号から5.1chサラウンド信号を生成する技術としては,米Dolby Laboratories, Inc.の方式が広く利用されている。NTTによれば,Dolby社の場合は人間の聴覚が左右の相関関係が低いと音の広がりを感じるという性質を利用したものであるとし,今回の残響音の分離,編集を利用する方法とは大きく異なるとする。

 今回開発したパソコン版の場合,リアルタイム処理に必要なマイクロプロセサの処理速度は4G命令/秒。残響を測定するためのフレーム数と残響の推定精度がトレードオフの関係になっているという。

 まずは,残響成分を分離し,強調したり低減したりといった編集をユーザーが自由に行える業務用音編集ソフトウエアとして販売する。具体的には,米Avid Technology , Inc. Digidesignの音編集ツール「Pro Tools」のプラグイン・ソフトウエア「NML RevCon-RS」として,エヌ・ティ・ティ ラーニングシステムズが実用化する。2010年4月に12万円程度で販売する予定。モノラル録音などの過去の音源を再販に向けて複数チャネル化したり,従来同様のステレオ録音環境で録音し,後の編集作業によってサラウンド化することでサラウンド音源作成のコストを低減したりする,といった用途を想定する。同ソフトウエアは,2009年11月18日から幕張メッセで開催される「国際放送機器展(Inter BEE 2009)」において,タックシステムが展示を予定している。

 NTTではDSP化に向けて研究を続けるとする。DSPによるリアルタイム処理を実現し,将来的には,テレビやAV機器などへの搭載を目指す。