LSIロジック新代表取締役の迫間氏に聞いた,技術者の生き方,ファブレス,選択と集中・・
LSIロジック 迫間幸介氏
大手半導体メーカーである米LSI Corp.の日本法人「LSIロジック」の新しい代表取締役/カントリー・マネージャーに,迫間幸介氏が就任した(Tech-On!関連記事)。親会社であるLSI社は,2006年にファブレス化に舵を切り,続く2007年には旧米Agere Systems Inc.を買収するなど,激動期を過ごしてきた。
その影響もあってか,日本法人であるLSIロジックの代表取締役/カントリー・マネージャーの職はここしばらく,安定してこなかった。ひとたび誰かが就任しても短い任期で退任することが多かったという。しかも,LSI社の社内組織における日本責任者であるカントリー・マネージャーと,登記上必要になる代表取締役に別々の人間が就くことも少なくなかったため,社内の指揮命令系統が複雑になっていたようだ。これに対して,今回就任した迫間 幸介氏は,久しぶりとなる代表取締役 兼 カントリー・マネージャーとなる。技術者である迫間氏は,これまで約23年間に渡りLSIロジックに籍を置く,いわゆる「生え抜き」である。顧客の間でも顔が良く知られているほか,社内の人望も厚い。代表取締役就任直後の迫間氏に,今後の経営ビジョンや技術者の生き方などについて聞いた。
問 まず,最近の景気状況をどうとらえていますか。
迫間氏 LSI Corp.の業績についてお話します。需要は2009年4〜6月期から増え始めています。数日前に発表した2009年7〜9月期の売上高は,対前年同期比では19%減でしたが,対直前期(2009年4〜6月期)比では11%増加しました。損益面でも,我々は黒字を維持しています。
問 損益面では,国内大手メーカーに比べていち早く移行したファブレス型事業体制が貢献しているようですね。
迫間氏 はい。工場の減価償却の負担を大きく減らせましたからね。LSI社がファブレス型への転換を決めたとき,一技術者である私は少し不安を感じました。ASICメーカーである我々が,生産を自分でコントロールできなくなって大丈夫かと。しかし,その不安は杞憂に終わりました。生産委託先である台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.,Ltd.(TSMC)との緊密な関係を構築することで解決できたからです。しかも,ファブレスと言っても,IPコアやライブラリはすべて我々LSI社が自ら開発したものを用いています。かつて工場に投資していた資金をIPコアなどの注力分野に振り向けているだけで,我々は,決して研究開発(R&D)の費用を削減しているわけではありません。
問 ファブレス企業にとって,半導体プロセス技術者の必要性や重要性をどう考えていますか。
迫間氏 ファブレス会社であっても,プロセス技術者は必要です。生産委託先のプロセス技術を使いこなすためには,我々も同じ理解度が必要になりますから。実際,LSI社のプロセス技術者はTSMCに常駐しています。
問 迫間さんと言えば,旧LSI Logic社の主力事業であるASICの技術者として活躍されましたね。そして,2003〜2005年ごろにストラクチャードASIC「RapidChip」の担当者として奮闘していた印象がとてもあります。こうした状況下で,2005年にLSI社の経営トップが創業者のWilfred J. Corrigan氏からIntel社出身のAbhi Y. Talwalkar氏に代わったことで,2006年3月にLSI社は突然,RapidChip事業からの撤退を発表しました。さぞ落ち込んだと思われますが,当時を振り返っていただけますか。
迫間氏 とてもショックでした。RapidChipの仕事は,新しい世界を作ることに挑戦でき,大変楽しかったですから。ただ,RapidChip撤退という決断と同時に,新たなCEOであるAbhi Y. Talwalkarから「ASICには投資する」という方針を私は聞きました。これにより,私は会社の向かう先が良く理解できました。Wilfred J. Corriganはかつて「もうASICはダメだから,RapidChipを始める」と言いました。一方,Abhi Y. Talwalkarは「RapidChipは撤退するが,ASICには投資する」と言ったわけです。CorriganとTalwalkarはお互い正反対のことを言っているように聞こえますが,実はどちらも当時としては正しいことを言っていたわけです。つまり,Corrigan時代の,幅広い用途に向けてASICを提供するスタンスに立てば,セルベースASICの開発費の高騰に対処する必要があり,その答えがRapidChipだった。これに対して,Talwalkarが考える,ストレージとネットワークの2大分野に向けた最高のソリューション・プロバイダーを目指す上では,RapidChipは不要であり,性能や消費電力で極限を狙えるASICこそが必要だったわけです。
問 LSI社が注力するストレージやネットワークの事業戦略をおうかがいします。
迫間氏 ストレージとネットワークの両分野に共通するのは,大手の機器メーカー(LSIユーザー)とガッチリ組んで,仕事をしていくという方針です。これらの大手LSIユーザーは,機器に搭載するLSIとして大規模なものを使うことが多い。そして,競合メーカーよりも早く機器を市場投入したいと考えています。かといって,外部からASSPを調達してきても,自分が欲しい機能は入れ込めない。これらの理由から,ASICを開発することがいまだに多い状況です。加えて,大手のストレージ/ネットワーク機器メーカーは,最先端の微細加工技術を使うことに積極的です。65nm世代から40nm世代への移行は早かったですし,現時点で既に28nm世代ASICの所要が多く寄せられています。
問 迫間さんは技術者でありながら,今回,代表取締役に就きました。もともと経営には興味があったのですか。
迫間氏 はい。私は技術者のバックグラウンドを持っていますが,さまざまな業務を通じて,ビジネスをドライブしていくことへの興味を持つようになりました。その転機になったのが,前述したRapidChipです。RapidChipの仕事を通じて,新しい世界を作り出すことの楽しみを知ったのと同時に,顧客のところに頻繁におうかがいするうちに営業面などでのやりがいも感じるようになりました。
私は23年以上,LSIロジックに在籍していますが,その間に数多くの社内転職を繰り返してきました。技術,QA,レイアウト,メソドロジ,マーケティング,営業などの仕事を手掛けました。こうした中から,新たな仕事や業務への抵抗がなくなったのかもしれません。海外と比べると,日本は技術者を貫き通すことが難しいという印象があります。海外では当たり前のように,「Fellow」や「Distinguished Engineer」というポストが確立されていますが,日本ではまだまだ及びません。こうした状況下では,技術者のキャリア・パスとして,いろいろな可能性を視野に入れるのも一考かもしれませんね。













