図1◎新しいW合金の加工例。このような加工でもクラックが発生しない。
図1◎新しいW合金の加工例。このような加工でもクラックが発生しない。
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図2◎加工例2.丸棒からベーゴマのような形状に加工できる。
図2◎加工例2.丸棒からベーゴマのような形状に加工できる。
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図3◎加工例3。曲げ加工も可能だ。
図3◎加工例3。曲げ加工も可能だ。
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 アライドマテリアルは,複雑な形状に塑性加工できるタングステン(W)合金を発売したことを明らかにした。鉛の代替や放射線の遮へい,バランサといった用途に向く。

 一般に,W合金は比重が10~18.5と高いため,カウンターバランサや質量調整用おもり,放射線の遮へい用材料として採用されている。同社でも以前から,こうした用途に向けてW合金「ヘビイメタル」を販売している。だが従来,これらの用途では,高比重(11.3)な上に低コストで,低融点,成形性に優れることから,鉛(Pb)を使うことの方が多かった。

 しかし現在,環境規制の強化に伴い,さまざまな産業分野でPbフリー化が進んでいる。これに伴い,Pbに替わる環境負荷の少ない材料として,W合金への注目が高まっているという。だが,W合金はPbや鉄(Fe)に比べて延性が低く,塑性変形しにくい。このため,複雑形状の部品を製造するには,切削・研削など機械加工が必要で,加工コストや材料コストが多くかかる,という課題があった。

 一方,おもり用途などでは,Feや銅(Cu)と同等の強度を維持しながら小型・軽量化するために,高比重のW合金に切り替えたいというニーズも多い。しかしこの場合も,複雑形状ではコストが割高となるため,採用が進んでいない。

 そこで同社は,冷間・熱間プレスにより複雑な形状に加工できるW合金を開発した。比較的単純な形状では,単純な丸棒からパイプ半割形状へ変形させた後でもクラックの発生がなく,素材全体で良好な組織を維持できる(図1)。これにより,切削・研削加工工程の省略と材料ロスの大幅な削減,さらに,生産速度の向上を実現できる。図1の場合は,従来に比べて量産時のトータルコストを約1/3に,生産速度を2倍以上に高められたという。

 新製品は,比重が12の場合の伸び率が40%以上,引っ張り強度は900MPa以上。伸び率ではPbやFeを上回り,引っ張り強度でも一般的な構造鋼であるS45Cと同等以上,Pb比では約50倍だ。こうした特色は,自動車エンジンのクランクシャフトのバランサなど,高い強度が要求される分野に向く。

 さらに,従来はPbやFeなどの補強材を組み合わせる必要のあった構造材を単一素材で実現する。このため,放射線の遮へいと機械的強度の両立が求められる用途への応用も期待できる。そのほか,丸棒からベーゴマのような形状へプレス加工したり,板状に圧延したり,さらには曲げ加工も可能だ(図3)。