ノルウェーOpera Software ASAは,Webブラウザーのメーカーとしては特異な存在だ。機器メーカーに対してカスタマイズ可能な形で個別に製品を提供する一方で,パソコンやスマートフォン,ひいては比較的エントリ・レベルの携帯電話機向けにもWebブラウザーを提供している。こうした両睨みの作戦を採る意義について,モバイル向けの製品を担当する同社Product Manager MobileのIgor Netto氏に聞いた。
――まず,モバイル向け製品の概要を教えてほしい。
Netto氏 モバイル向けの製品は二つある。「Opera Mobile」という,主として携帯電話機メーカー向けに供給しているもの。これは,パソコン向けの「Opera」と基本的にエンジンを共通化している。もう一つが「Opera Mini」という。クライアント-サーバー型のアーキテクチャを採用しており,基本的なレンダリングはサーバー側で実行する。圧縮したデータを送信するので,元のデータを送るよりも約1/10程度のデータ量で済む。また「Java ME」で実装しているので,比較的性能の低い携帯電話機でも利用できる点が特徴だ。
――なぜモバイル向けとパソコン向けの両方の製品を提供しているのか。
Netto氏 我々の目的は,すべての機器でパソコンと同じWeb体験を提供することにある。Opera社のWebブラウザーを使えば,組み込み機器でWebを利用する際に何の制約もない。
当社はモバイル向け製品を長らく手掛けることで経験を積んでおり,Webブラウザーにモバイル環境に適したユーザー・インタフェースを実装している。高速性も特徴としている。だから現在,我々は米Apple Inc.の「iPhone」や,米Google Inc.の「Android」向けのOperaも開発中だ。米Microsoft Corp.の「Windows Mobile」には標準で「Pocket Internet Explorer」が実装されているが,実質的な標準はOpera社のWebブラウザーだ。同じように,iPhoneやAndroidでもOperaが受け入れられると考えている。
――モバイル向けの二つの製品は,それぞれどういった位置づけになるのか。
Netto氏 Opera Miniはコンシューマ向け,Opera Mobileは基本的に機器メーカー向けの製品となる。比較的低機能の携帯電話機には,一部Opera Miniを標準搭載している機器もあるが,基本的にエンドユーザーがダウンロードして利用するソフトとしてOpera Miniを提供している。Opera Mobileは逆に,機器メーカーが個別にカスタマイズして実装するWebブラウザーだ。
――ここに来て,iPhoneやAndroidなど,オープンソースの「WebKit」をWebブラウザーに採用する機器が増えている。
Netto氏 WebKitはあくまでもレンダリング・エンジンに過ぎず,Webブラウザーの一部に過ぎない。ユーザー・インタフェースや機器への統合,最適化など,メーカーが実装に当たって開発にかける工数は少なくない。それに対してOpera Mobileは,統合したWebブラウザーとして実装されている。言わば“Do It Yourself”で組み立てるか,完成品を買ってくるかの違いだ。
それに,例えばAndroidであればGoogle社のサービスに直結した形で実装されているように,機器メーカーや携帯電話事業者が好みのサービスにつなげるには,Opera社のような中立の立場の製品の方がやりやすい。
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