図◎新開発のエポキシ樹脂を採用したプリント回路基板(試作品)。
図◎新開発のエポキシ樹脂を採用したプリント回路基板(試作品)。
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 日立製作所と徳島大学,横浜国立大学は共同で,木質バイオマスに含まれるリグニンを主原料として,有機溶剤に溶けるエポキシ樹脂を開発した。回路基板や半導体用封止材,発電機,受変電設備など,高い耐熱性が求められる部材の電気絶縁用途での実用化が期待できる。

 同社によると,木材を原材料とする未利用の木質バイオマスは,2007年には約500万tに達したという。そのため,それらに含まれる炭素源を用いた樹脂(バイオマス・プラスチック)が,石油由来の樹脂に替わる素材として注目されており,既に,一部でポリ乳酸などを利用したバイオプラの開発・採用が進んでいる。だが一方で,エポキシ樹脂の実用化には至っていない。それは,従来のバイオ由来のエポキシ樹脂が有機溶剤に溶けず,所定の形状に成形するのが難しいことに加え,必要な耐熱性と絶縁性を満足できないことが理由だ。

 そこで日立製作所は,リグニンを主原料として使用し,かつ有機溶剤に溶けるエポキシ樹脂を開発した。従来のリグニン由来のエポキシ樹脂が有機溶剤に溶けなかったのは,石油を主原料としたものに比べて,製造過程で分子量が著しく上昇するためだ。そこで今回,低分子量のリグニン用いた上に,合成の際の触媒を調整し,エポキシ樹脂の分子量を低く抑えることで,有機溶剤に溶かすことを可能にした。このリグニンを得るのには,徳島大学が開発した水蒸気爆砕法(高温・高圧で木材をセルロースやリグニンなどの各成分に分解する技術)を採用した。

 こうして製造したエポキシ樹脂に,さらにリグニンを硬化剤として用いることにより,耐熱性に優れるエポキシ樹脂硬化物が出来た。硬化物のガラス転移温度は200℃以上とする。

 新開発のエポキシ樹脂を利用してプリント回路基板を試作したところ,耐熱性や絶縁性などの特性が,石油由来のエポキシ樹脂を用いた場合と同等であることが確認できた(図)。

 リグニンは3次元網目状の化学構造を持つ物質で,木材に約20%含まれる。同社は,配線基板や産業機器などの分野での実用化に向けて,新技術の研究開発を推進するという。