国土交通省は2009年9月8日,「シティハイツ竹芝エレベーター事故調査報告書」(報道発表資料はコチラ)を公表した*1。同報告書は,2006年6月3日に東京都港区の集合住宅「シティハイツ竹芝」で発生した死亡事故に関するものである。警察に分解・保存されていた事故機の調査に加え,捜査機関やエレベータメーカー,保守管理会社からの情報によって明らかになった事実を整理し,分析している。事故時にブレーキの保持力が失われる原因となったブレーキコイルの巻線の短絡については,事故機のブレーキが「特殊な構造をしており,(中略)短絡に至った可能性が考えられる」(同報告書)としている。

*1 事故調査報告書を取りまとめたのは,国土交通省の社会資本整備審議会建築分科会建築物等事故・災害対策部会の中に2009年2月に設置された昇降機等事故対策委員会。

 調査報告書ではブレーキ以外にも,乗り場のスイッチや制御器の故障などについても事実確認と分析を行っているが,事故原因としては「電磁ブレーキがかごを保持していない状態となり,かごとつり合いおもりのアンバランスによりかごが上昇したことによるものと推定される」としている。ちなみに,同報告書における「推定される」との表現は,「断定できないが,ほぼ間違いない場合」に使われる用語だ。

 ブレーキによる保持力が失われたプロセスについては,以前から(1)ブレーキコイルの巻き線が短絡し,ソレノイドの吸引力が低下する(2)ブレーキが十分に開放しない状態で昇降を繰り返し,ブレーキライニングの摩耗が進行する(3)ブレーキライニングの摩耗が限界を超え,ブレーキドラムを押さえることができなくなった――と考えられていた。調査報告書でも同様の見解を示しているが,さらに踏み込んで短絡が発生した要因について,事故機の構造上の問題を指摘したことになる。

 事故機のブレーキコイルの抵抗値が定格値の約半分であったという事実に関して,まず,「通常の層間短絡によって起こる可能性は低いことから,ブレーキコイルの口出し線の立ち上げ部がブレーキコイルの巻線部と短絡していた可能性が考えられる」(同報告書)と推測。さらに,「事故機のブレーキは,ブレーキコイルがブレーキの開閉動作に合わせて動くという国内のドラム式のものとしては特殊な構造」(同)であることから,「ブレーキ開放時にプランジャーがヨークに当たる際の強い衝撃によって,ブレーキコイルに振動が生じ,口出し線の絶縁処理が適切でない場合,口出し線とブレーキコイルが接触して摩擦を繰り返すことによって被膜が摩耗して絶縁が効かなくなり,短絡に至った可能性が考えられる」(同)と分析している。

 事故機の構造が,事故原因の一つである短絡の発生に影響した可能性を具体的に指摘したことは,非常に注目される点だ。

 また,同報告書では,今回の事故以外の不具合(着床位置ずれ,階数ボタンの異常点滅など)が発生した原因は「インバータから発生する電気的ノイズが制御器の運転指令に影響を与えたためと推定される」(同)としており,「設計上の問題があったと考えられる」(同)ことも指摘。「インバータからのノイズの影響およびブレーキの構造と本事故との因果関係は特定できないが,エレベーターの品質としての信頼性に問題があったと考えられる」とした。

 報告書ではエレベータ本体だけでなく,保守管理に関しても事実情報の整理と分析を実施。これらのことを踏まえて,同種の構造を持つエレベータの安全性確認や製造者によるリスク情報などの開示といった「意見」をまとめている。