日立ツールと日立金属は,従来のDLC(Diamond Like Carbon)コーティングに比べて密着性の高い自動車部品用DLCコーティング「L-Frex」と,皮膜の特性を高める自動車部品用母材「ASL555」を開発した。2009年10月,日立ツールが新コーティングのサービスを開始し,日立金属が新母材を発売する予定だ。基礎研究では,日立製作所の協力を得た。

 両社によると,自動車部品に対する軽量化,耐久性の向上といったニーズが高まっており,中でもエンジンの動弁系(バルブリフタ,ロッカアーム)や燃料噴射系の摺動部品(燃料噴射ノズル,燃料供給ポンプなど)で発生する摩擦の低減要求が高いという。加えて,エンジンに使用する摺動部品は高温にさらされるため,耐焼き付き性の向上も求められる。

 そのため従来,摺動部品には窒化処理などのコーティングを採用していたが,対応できない領域もあった。そのため,摩擦をさらに低減できるDLCコーティングの普及が進んでいる。しかし,従来のDLCコーティングは,密着性に課題があったという。

図1◎密着性を高めたDLCコーティング「L-Frex」シリーズの摩擦係数と皮膜硬さ。

 そこで今回,日立ツールと日立金属は,それぞれが持つコーティング技術と素材技術を生かし,DLCコーティングによる皮膜の密着性について研究した。その結果,コーティング皮膜と母材の界面に存在する数十nmの薄い酸化皮膜が皮膜の密着性を低下させることが分かった。そして,その酸化皮膜をしっかりと除去することで,密着性を従来のDLCコーティングから50%以上高められた(図1,2)。

 さらに,新コーティングでは皮膜の硬度も高めている。コーティング・サービスには,ビッカース硬さが2000HVの「L-Frex S」と3000HVの「同M」,4000HVの「同H」をラインアップする。いずれも,摩擦係数は0.10~0.15で,はく離荷重は85N。

 併せて両社が開発した母材は,高Cr系のマルテンサイト鋼をベースとする。高い疲労強度と耐食性をバランスよく確保するために,添加元素を工夫したという。コーティング処理時に昇温しても,ロックウェル硬さで約60HRCを維持する。コーティング処理時間を短縮するために450℃程度まで加熱しても,高い硬度を維持し,密着性を確保できる。さらに新母材は,窒化クロム処理や窒化チタン処理などDLCコーティング以外のコーティングでも密着性を高められるという。

 日立ツールは,同社の松江表面改質センター(島根県松江市)でコーティング・サービスを実施。日立金属は,特殊鋼カンパニーの安来工場(島根県安来市)で母材を製造する。なお,松江表面改質センターは,両社のコーティング事業の統合に伴って日立金属から日立ツールに移管された施設だ(Tech-On!関連記事)。

図2◎スクラッチ試験の結果(スクラッチ荷重が40Nのとき)。いちばん左が新コーティングで,そのほかが従来のDLCコーティングの例だ。

連絡先:日立ツール 松江表面改質センター/日立金属 特殊鋼カンパニー
電話:0852-60-5050(日立ツール)/03-5765-4391(日立金属)