図1
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図2
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図3
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図4
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図5 左右の写真(モニター表示画像)で明るさが異なるのは,別に撮影したため。右側の写真の背景がぼやけている。ぼかし処理にはガウス・フィルタなどを用いているという。
図5 左右の写真(モニター表示画像)で明るさが異なるのは,別に撮影したため。右側の写真の背景がぼやけている。ぼかし処理にはガウス・フィルタなどを用いているという。
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 富士フイルムは,光学10倍ズーム・レンズを搭載しながら本体が22.7mmと薄い「FinePix F70EXR」を2009年8月8日に発売する(図1~2)。市場で競合する可能性がある機種の一例を挙げると,オリンパスの10倍ズーム機「μ-9000」は,厚さが31mmである。

 F70EXRの想定実売価格は,約4万円。本機は,「スーパーCCDハニカム EXR」を用いて,コンパクト機しては最高水準の画質を達成した「FinePix F200EXR」の機能をほぼ引き継いでいる(ハニカム EXRの詳報記事)。F200EXRは光学5倍ズームで,本体厚さが23.4mmだった。

 富士フイルムはF70EXRのレンズに,放送機器で実績あるブランド「フジノン」を与え,それに恥じない高水準の解像力を実現したと主張している。では,10倍ズーム・レンズを,同社はいかにコンパクトにすることで,本体の薄型化を実現したのか。その答えは主に三つある。

 第1の答えは,有効画素数の減少を承知の上で,撮像素子を小型化したこと。レンズ・ユニットの大きさを左右する最大級のパラメータは,撮像素子の大きさである。そこで同社はF70EXRで,撮像素子の光学サイズ(撮像部対角長)を,1/1.6型(対角長10.0mm)から1/2.0型(対角長9.0mm)にひと回り小さくした。この結果,有効画素数は1200万から1000万にダウンした。なお,画素ピッチは約2.0μmのままである。

 第2の答えは,スライディング・レンズを含む大胆な光学設計である。スライディング・レンズとは,沈胴(レンズを縮ませて本体に格納すること)時に,一部のレンズを光軸から外して,空いたスペースに他のレンズを収納することをいう。こうした設計は,ペンタックスが得意なことで知られているが,「レンズを待避させる方法が異なるので,特許を侵害しない」(富士フイルムの説明員)という。

 さらに富士フイルムは,待避する球面レンズを分厚く,曲率半径を非常に大きくすることで屈折力を高めた。このことによって,他のレンズの薄型化(曲率の低減)が実現した。待避するレンズの形状は,図3で見ることができる。左側の沈胴時のカット・モデルでは撮像素子の斜め上に,待避レンズがある。

 レンズ・ユニットの小型化のカギを握るレンズは,上記のほかに3枚あるという。図3の左側から2枚目のレンズは,アッベ数が大きい異常分散系の硝材を用いた。撮像素子側から数えて1枚目と2枚目のレンズには非球面を採用している。展示の説明書きには非球面の設計に「奇次数を含む高次非球面係数を用いた」とあった。

 第3の答えは,地道なレンズ製造の見直しである。待避レンズを除いた各レンズは,デジタル・カメラ用としてかなり薄い。これは加工の過程で割れやすいことを意味する。その克服策は確認できなかったが,「後継機種で数多く今回のレンズ・ユニットを使い回したい」と説明員が話していたことから,無理のない加工プロセスを確立できたという自信がうかがえた。

背景を電子的にボケさせる

 F70EXRは,使い勝手がそこそこ良い,背景ぼかし機能を備えている。本機のようなコンパクト機は,一眼レフに比べて背景がボケにくく,写真が印象深くなりにくい。ボケの量(被写界深度)は撮像面の寸法に大きく左右されるので,光学設計ではいかんともしがたい。

 そこで電子的な処理を施すカメラが登場し始めている。背景と識別した部分に,ぼかし処理を施すのだ。他社の機種と比べるとF70EXRは「プレビュー画面の枠内に,メインの被写体を入れて撮るという作業が不要」(説明員)という特徴がある。

 富士フイルムは,「枠内」という制約を取り払うため,いわばピント位置のオートブラケット(撮影条件を変えながら数枚連写すること)を利用した。「合焦用レンズの位置が異なる状態で2~3枚撮った結果を使うことによって,メインの被写体と前景,背景の距離情報をかなり正確に取得している」(説明員,図4~5)。

 ただし,課題がないわけでもなさそうだ。一つは,連写結果の一部にだけ移動する物体が写り込むと,距離情報を取得する前提条件が変わってしまうこと。つまり今回の機能は,静物撮影向けである。もう一つは,どのくらいボケて撮れたのか(撮れる)のか,背面モニタでは画像を拡大しないと,分かりにくいことだ。

 この点については,カメラの熟練者だけを対象にすれば,文字情報の表示だけでかなり解決する。「(35mm判換算の焦点距離)90mm,F5.6相当」といった具合だ。しかし「F70EXRはあくまで万人向け。別の方法を模索し,一層使いやすい機能に育てたい」(説明員)という。

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