無線LANの標準規格策定を進める米IEEE802.11委員会は,60GHz帯のミリ波を使う次世代高速無線LAN規格「IEEE802.11ad」の,伝送仕様の要求条件をほぼ固めた。データ伝送速度は,MAC層のスループットで1Gビット/秒以上となり,物理層ではさらなる高速性が求められる。今後,仕様選定に必要な基準などを固め,2010年前半にも技術提案の募集を開始する方針だ。

1080p映像の伝送も視野に

 60GHz帯の利用を検討していた標準化部会「Task Group ad(TGad)」の会合において,要求条件の草案として承認されたもの。TGadは,現行の高速無線LAN規格「11n」の後継規格を審議していた作業部会「VHT(very high throughput)」から派生した二つのグループのうちの一つ。もう一つのグループは,6GHz以下の帯域を利用して高速無線LAN実現を目指す「Task Group ac(TGac)」である。見通し外での通信が可能な11acに比較すると,ミリ波を活用する11adは,電波の直進性が強いことから,部屋内など適用範囲が限定される。一方で,ミリ波は世界的に広帯域を利用可能なことからデータ伝送速度の高速化が容易という優位性がある。このため11adは,広範な接続性を確保できる11acなどと組み合わせて利用するとみられている。


 TGadの草案では,スループットのほか,データの伝送距離として最低10m(1Gビット/秒伝送時)が必要とした。非圧縮のHD映像を伝送する場合の要求条件では,HD映像(1080pで24ビット/ピクセル,60フレーム/秒)の伝送で,速度が3Gビット/秒以上,遅延時間は10ms以内である。


 60GHz帯の無線通信から,2.4GHz/5GHzの無線通信に高速に切り替える機能「Fast Session Transfer」を盛り込んだ。60GHz帯の電波が途切れた際に瞬時にほかの無線帯域を使って通信を継続できるようにする。このほか,60GHz帯を利用するほかの無線通信規格との間で,干渉が生じないような工夫も施す。


 TGadの今回の会合では,大まかな要求条件などは固まったものの,技術提案(伝送方式)を評価するための評価手法やチャネル・モデルなどの議論はまとまっていない。TGadでは,次回会合などにおいて,チャネル・モデルなどの議論を進めたいとしている。


 60GHz帯利用の無線通信では,米Intel Corp.や米Broadcom Corp.などが主導する業界団体「WGA(Wireless Gigabit Alliance)」がある(ホームページ)。WGAは2009年第4四半期をメドに,伝送仕様を固めるとしているが,WGAの主導企業とTGadの策定メンバーは非常に近い関係にあることから,TGadの策定内容が今後WGAの議論に大きく影響するとみられている。