図1◎調光フィルムの使用例。米インディアナ大学が,同調光フィルムをラミネートしたガラス板を採用した。
図1◎調光フィルムの使用例。米インディアナ大学が,同調光フィルムをラミネートしたガラス板を採用した。
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図2◎調光フィルムの断面図。マトリックス樹脂中に,配向粒子を封入したマイクロカプセルを分散させている。
図2◎調光フィルムの断面図。マトリックス樹脂中に,配向粒子を封入したマイクロカプセルを分散させている。
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図3◎調光フィルムの原理。電圧を印加すると粒子が配向して透明になり(上),電圧を印加しないと遮光状態になる(下)。
図3◎調光フィルムの原理。電圧を印加すると粒子が配向して透明になり(上),電圧を印加しないと遮光状態になる(下)。
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 日立化成工業は,電圧によって濃淡を調整できる調光フィルムを製品化し,五所宮事業所(茨城県筑西市)で量産を開始した。既に,航空機の窓などに採用されており,同社では,自動車や船舶,家電製品などへの適用も見込む(図1)。2012 年には売上高50億円/年を目指す。

 新しい調光フィルムは,透明導電層をコーティングした2枚のポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)と,配向粒子を封入したマイクロカプセルが分散されたマトリックス樹脂から成り,PETでマトリックス樹脂を挟みこんでいる(図2)。無印加時は粒子が配向しないため濃紺色の遮光状態となり,配向粒子に交流電圧を印加すると粒子が配向して透明状態になる(図3)。濃紺色から透明まで,濃淡を無段階に制御し,光の透過率を調整できる。消費電力については,1.1W/m2に抑えた。

 同社によると,プライバシーの保護やプライベートな空間の演出,日差しを遮ることで室内の温度上昇を抑えるといった目的で,調光ガラスの市場が拡大しているという。既存の調光技術としては,液晶やエレクトロクロミックなどがあるが,前者では白濁/透明間の微妙な調整が難しく,後者には応答速度や大型化などに課題があった。そのため,大型化が可能で無段階に光量を調節でき,さらに日差しを遮れる濃い色調の製品が求められていた。

 そこで同社は,米国からSPD(Suspended Particle Device)技術を導入。さらに,同社の樹脂合成技術により新たなマトリックス樹脂を開発すると同時に,フィルムの塗工技術,調光粒子の大きさを制御する技術,電気特性の評価技術などを駆使することで,電圧で濃淡の調整が可能な広幅・長尺の調光フィルムの製品化に成功した。

 ユーザーは日立化成工業から調光フィルムの提供を受け,ガラスやポリカーボネート,アクリル板にラミネートすることで,調光ガラスや調光プラスチック板を製造する。