Transition State Technology(以下,TS Technology)は,有機化学の合成経路をコンピューター支援エンジニアリング(CAE)によって短時間で可能性などを解析する量子化学計算の受託事業を開始した。同社は,2009年6月23日に設立された,山口大学発のベンチャー企業である。

 TS Technologyは,有機化学の合成経路CAE事業を「受託計算サービス」「合成支援サービス」「研究受託システム」「研究受託(包括連携)」の4項目で展開する計画。「受託計算サービス」は,化学反応に対するエネルギー計算や構造最適化計算,遷移状態探索などを1件当たり標準価格で5万~50万円で請負うもので,納期は1日から1週間である。「合成支援サービス」は複数想定される合成経路をCAEによって反応機構を解明し,合成可能性の高い経路を見い出したり,現行の合成経路を改良する提案を提供するサービスだ。1件当たり合成経路が2~3経路で納期が1カ月程度で標準価格150万円で提供する見通し。

 受託計算サービスでは,クライアントとなる企業と必要ならば秘密保持契約を締結した上で,有機合成の分子量や反応の種類などを確認する計算課題を示した後に,計算内容の見積もり書を提示して契約を交わし,計算結果を納品する流れとなる。合成支援サービスでは,検証実験などが加わる流れとなる。TS Technologyによると,有機化学の合成経路を求める際には,まず量子化学計算によるCAEによって,合成経路の目安をつけてから,合成実験に入った方が早く低コストで最適化できると説明する。迅速化は,独自の理論計算システムを開発済みで,「実績として従来1カ月かかった計算を3日間に短縮したケースがある」という。また,同社のCAEによって,研究開発投資費に対する効果を示すROI(利益額/投資額の%表示)を320%と,大幅に効率化したケースがあるとしている。

 なお,TS Technologyの資本金は555万円で,代表取締役社長に山口徹氏,取締役に貞富博喬氏が就任した。山口氏は起業家として同社の創業準備を担当してきた。同社は文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST)が実施する独創的シーズ展開事業の大学発ベンチャー創出推進に採択され,平成19年度から21年度(2007年度から2009年度)にわたって課題「ケミカルイノベーションを目指したin silico合成経路開発」を通して創業準備支援を受けてきた(Tech-On!関連記事)。同課題の開発責任者は山口大教授の堀憲次氏が務めた。事業化の準備を進めた山口大工学部のビジネスインキュベーション棟に創業準備室を設け,今回は準備室に本社を構えて創業した。本社所在地は,山口県宇部市。

 同社は創業と同時に,量子化学計算の基盤となる遷移状態データバンク(TSDB)のインターナショナル版を正式公開した。