インパルス無線方式のミリ波通信装置
インパルス無線方式のミリ波通信装置
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 富士通と富士通研究所は,70~100GHzの無線周波数帯を利用するインパルス無線伝送方式の通信装置を開発し,10Gビット/秒を超える無線通信に成功したと発表した(発表資料)。実際に送信機と受信機を対向させ,室内伝送実験を行って確かめたという。インパルス無線伝送方式は,非常に短い時間に変化するパルス信号を発生させ,フィルタにより使用周波数成分のみを抽出して送信する伝送技術。容積が大きな発振器が不要で,少ない部品点数で構成できるため,ミリ波通信装置を小型化および低価格化できる。光ファイバー通信網が敷設困難な地域に向けた基幹回線や,超高速無線LANなどへの応用を想定する。

 開発した通信装置は,RF送信部をパルス発生器とフィルター,送信増幅器の3部品で,RF受信部を低雑音増幅器と検波器,後置増幅器で構成する。RF送信部は,富士通および富士通研究所が2008年に開発したRF送信部をもとに開発した(Tech-On!の関連記事)。今回の通信装置では,従来のインパルス無線方式の課題を2つ解決したという。具体的には(1)RF受信部のアンテナから増幅器までの配線部で発生する受信信号の波形の歪みを低減することと,(2)送信機から送信するパルス信号の時間的ゆらぎを低減すること。パルス信号の時間的ゆらぎは,受信機内での「0」または「1」の判定のタイミングにズレを生じさせ,受信誤りを引き起こすという。

 課題の解決には,富士通研究所が開発したインジウムリン高電子移動度トランジスタ(InP HEMT)技術を用いた。受信機向けには,従来より高速で低雑音の増幅器を実現するInP HEMTを用いて,広帯域で高い増幅率を備える低雑音増幅器を開発した。この低雑音増幅器は,受信アンテナから低雑音増幅器までの配線部と反対の伝送特性を備えるため,配線部で生じる波形の歪みを打ち消すという。これによって,受信機において感度0.25μWと数kmの距離の無線伝送に必要な高感度特性に加え,良好な波形が得られたとする。

 送信機向けには,10Gビット/秒のデータ信号と比べてジッタの小さい10GHzのクロック信号を基に,10Gビット/秒のデータ信号を参照しながら短パルスを発生する新回路を,InP HEMTの短パルス発生器に採用した。この結果,10Gビット/秒のミリ波パルス信号のジッタは,0.3ピコ秒となったという。この値は,2008年に開発した送信機の安定性の5倍以上に相当する。

 今回の研究は,総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環。富士通らはこの技術の詳細を,2009年6月7~12日に米国ボストンで開催された「2009 IEEE MTT-S International Microwave Symposium(IMS2009)」で発表した。

開発したインパルス無線方式RF受信部(左)と10Gビット/秒受信検波出力測定結果(縦軸:出力電圧,横軸:時間)(右)
開発したインパルス無線方式RF受信部(左)と10Gビット/秒受信検波出力測定結果(縦軸:出力電圧,横軸:時間)(右)
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