NECエレクトロニクスは,ランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)の影響を定式化することに成功したと発表した。RTNは微細なトランジスタで発生するバラつきの一つで,それによってトランジスタの特性が動作中に変化し,回路が誤動作する恐れがある。これまでにもRTNに関する研究成果は数多く発表されているが,定式化(モデル化)したという報告は,あまり例がない。今回,RTNの影響を定式化できたことで,その影響を設計段階で精度よく見積もることが可能になった。22nm以降のプロセス世代の耐バラつき設計の確度が大幅に向上すると期待される。

図1●ランダム・テレグラフ・ノイズ(RTN)とその影響
チャネルの絶縁体にあると言われているトラップが,キャリアを補足して発生する。NECエレのデータ。
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図2●製造バラつきとRTN
左が製造バラつきで,時間変化がない。右がRTNで時間変化がある。NECエレのデータ。
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 RTNは,トランジスタのチャネルを移動するキャリア(電子や正孔)が,ゲート絶縁膜などに存在するトラップ(トラップ準位)に捕獲されたり,トラップから放出されたりする現象を言う(Tech-On!関連記事1)。この現象によって,トランジスタの各種特性(例えば,しきい電圧)が変化する(図1)。これまで話題に上ることの多かった製造バラつきは,回路の動作中に変化することはなかっが,RTNは時々刻々変わるという特質がある(図2)。

マージンを最適化

 RTNが発生しても,回路が問題なく動作するように設計するためには,RTNが引き起こす特性変化の最大値を知り,その影響をカバーする設計マージンを設ける必要がある。最大値の見積もり精度が甘いと,マージンが大きくなりすぎて微細化による恩恵を享受しにくくなったり,マージンが小さすぎて誤動作が頻発することになりかねない。

 今回の定式化によって,RTNが引き起こす特性変化の最大値が設計段階で高精度に見積もれるようになるため,適切なマージンが設定可能になる。これで,プロセスの実力を引き出した設計ができるようになると期待される。

 次に,今回の成果である,特性変化の最大値の算出式を見てみる。