物質・材料研究機構(NIMS)は,国産宇宙ロケット「H-IIA」「H-IIB」のエンジンで使用する材料の強度をまとめたデータシート「No.12 アルミニウム合金A356-T6鋳造材の破壊靭性および高サイクル疲労特性データシート」と「No.13 Cu-Cr-Zr合金の低サイクル疲労特性データシート」,宇宙関連材料の破面写真集「No.F-3 アロイ718鍛造材(φ165 mm billet)の破面」を発行した。

 この活動は,NIMSの知的基盤の充実に向けた取り組みと,宇宙航空研究開発機構(JAXA)の基幹ロケットの維持・発展に向けた取り組みの一環として,両者が進めているもの(Tech-On!関連記事)。これまでに,チタン(Ti)合金やニッケル(Ni)基超合金の極低温における疲労メカニズムなどのデータを公開している。

 新たに発行したデータシートのうちNo.12は,アルミニウム(Al)合金「A356-T6」の鋳造材(Al-7.0Si-0.35Mg)に関するものだ。液体水素温度(20 K),液体窒素温度(77 K),室温(293 K)での引っ張り特性や破壊靭(じん)性,高サイクル疲労特性のデータのほか,金属組織の写真,高サイクル疲労試験後の破面写真を掲載する。

 No.13は,銅(Cu)-クロム(Cr)-ジルコニウム(Zr)合金鍛造材に関するものである。室温や高温(773 K, 823 K, 923 K)での引っ張り特性,クリープ破断寿命,低サイクル疲労特性(三角波,引っ張り保持,圧縮保持)の各データ,金属組織の写真,低サイクル疲労試験後の破面写真を収録する。ただし,クリープ破断寿命と引っ張り保持,圧縮保持の低サイクル疲労特性データについては,高温のみのデータを載せている。

 破面写真集No.F-3は,アロイ718鍛造材(52.5Ni-19Cr-3.0Mo-5.1Nb-0.90Ti-0.50Al-19Fe)に関するもの。発行済みのデータシート「No.5」に掲載したデータの試験片(引っ張り試験片,シャルピー衝撃試験片,破壊靭性試験片,高サイクル疲労試験片,き裂進展試験片)の金属組織写真と破面写真を掲載する。き裂進展特性はNo.5に掲載されていないため,別途にデータシートとして発刊する予定だ。なお,写真集の配布は,国内の希望者に限る。

 液体ロケットエンジンの信頼性を高めるには,エンジン運転時の過酷な環境下での強度余裕を高い精度で把握し,構造設計や製造・検査工程に反映する必要がある。NIMSやJAXAが持つデータは,H-IIA/H-IIBの第1段エンジン(LE-7A)と第2段エンジン(LE-5B-2)の強度余裕評価や改良設計に使用されており,将来のロケットの研究・開発にも利用されるという。

 2010年3月には,Ti合金やアロイ718鍛造材のき裂進展特性に関するデータシート,Ni基超合金(一方向凝固材)の引っ張り特性や高サイクル疲労特性をまとめたデータシートを発行する予定だ。