CFRTPのプレス品
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CFRTPの射出成形品
CFRTPの射出成形品
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CFRTP成形品の概要
CFRTP成形品の概要
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 東レは,熱可塑性樹脂を母材に用いた炭素繊維強化樹脂(CFRP)の成形品を「人とくるまのテクノロジー展 2009」に出展していた(関連記事1)。同社は従来,熱硬化性樹脂を母材に用いた成形品の技術発表や展示を行っていたが,サイクルタイムの点で「量産に向くのは熱可塑性樹脂」(同社の説明員)。今後は,熱可塑性樹脂を用いたCFRPの研究開発を積極的に進めていくという。

 前述の通り,CFRPには,母材に熱可塑性樹脂を用いるタイプ(CFRTP)と,熱硬化性樹脂を用いるタイプ(CFRTS)がある。現在,航空機や一般産業などの分野で使われているCFRPのほとんどは,母材に熱硬化性のエポキシ樹脂を用いたCFRTSである。

 CFRTSの欠点は,サイクルタイムが長いことだ。東レは,型内に炭素繊維基材を置いて樹脂含浸後に硬化させるRTM(Resin Transfer Molding)法をベースに,CFRTSの高速成形法である「ハイサイクル一体成形」を日産自動車などと共同で開発。従来は2~3時間だったサイクルタイムを10分に縮め,実際にドアインナーパネルやプラットフォームのフロントフロアの成形品を試作した(関連記事2関連記事3)。

 しかし,量産車のサイクルタイムは一般に1~2分である。台数の出る車種では,1分を切ることも少なくない。前出のハイサイクル一体成形においてそこまでサイクルタイムを縮めるのは非常に難しいだろうと,同社の説明員は語る。

 そこで,プレス加工や射出成形などサイクルタイムが短い成形法が使えるCFRTPが浮上してくる。だが,CFRTPにも欠点がある。炭素繊維と樹脂の接着性が,現時点ではCFRTSに劣ることだ。今回,東レはCFRTPの母材にPPS(ポリフェニレン・サルファイド)を用いているが,今後もさまざまな種類の母材を試したり,基材の構造を工夫したりすることによって,安定した接着性を得られるようにしていくという。裏を返せば,エポキシ樹脂を用いたCFRTS並みの接着性を得られるようになれば,CFRTP普及への道が一気に開けることになる。

 また,CFRTSにないCFRTPの利点は,自動車向けのCFRP成形品を再び自動車向けにリサイクル材として利用できる可能性が高いことである。東レなどの炭素繊維メーカー各社は共同で,CFRP成形品を粉砕・熱分解した上で,繊維長が1mm未満と短い「ミルド」と呼ばれる射出成形用のリサイクル材にする研究を進めている。自動車は破砕くず(シュレッダダスト)のリサイクル率を決められた水準以上にすることが,法律(自動車リサイクル法)によって求められているので,リサイクルできない材料を自動車メーカーは本格的に採用しないだろう。その点,CFRTPの射出成形が広く採用されれば,CFRTPのマテリアル・リサイクルの可能性も見えてくる。