P.O.Dについて
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P.O.Dの構成
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高臨場感ディスプレイが与える効果
高臨場感ディスプレイが与える効果
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 「『ガンダム』があったからドーム・スクリーン型ディスプレイを商用化できた」---。バンダイナムコゲームスのAM事業本部 AM研究部 ゼネラルマネージャーの大久保明氏は,2009年5月22日に開催された精密工学会主催の講習会で,「ものづくり:ゲーム筐体のつくり方」と題する講演を行った。この中で,同氏はバンダイナムコゲームスが手掛けてきたアーケード・ゲームの歴史や,ゲーム装置の設計などについて語った。

 講演の中で,大久保氏が取り上げたアーケード・ゲームの一つが「機動戦士ガンダム 戦場の絆」。いわゆる「体感ゲーム」と呼ばれるゲームの一種だ。体感ゲームは,メカトロニクス技術とエレクトロニクス技術を組み合わせた「エレメカゲーム」技術と,ビデオ・ゲーム技術を融合したもの。よりリアルな臨場感を演出することを目指して,現実の状況を模した装置を使う。例えばレーシング・ゲームなら,シートやアクセル,ステアリングなどがついた自動車のコクピットを模した装置を用意し,ユーザーの操縦に合わせて装置を振動させるいった動作で臨場感を演出する。このため,そのゲーム専用に大型装置を開発する必要がある。

 大久保氏によれば,機動戦士ガンダム 戦場の絆は,開発者にとっても,ユーザーにとっても,極めてユニークな体感ゲームという。その特徴は,ゲーム装置に同社のドーム・スクリーン型ディスプレイ「P.O.D(panoramic optical display)」を採用していること。P.O.Dは,ユーザーの周りをディスプレイで覆うため,あたかも映像の中に入り込んだような臨場感のある体験ができる。ゲームの内容は,アニメ「機動戦士 ガンダム」の中に登場するモビル・スーツのコクピットに乗り込み,上下左右から迫ってくる敵をチーム戦で倒すというもので,ユーザーを囲むディスプレイに敵の映像などが映し出される。インカムを使った音声チャット機能を用いて,チームを組んだ他のユーザーとリアルタイムに話しながら,ゲームを進められる。

遊んだ回数が増えるにつれて,ディスプレイの使い方が変化する

 大久保氏は,P.O.Dのような高臨場感ディスプレイの特徴として,「遊んだ回数が増えるにつれて,ユーザーの使いこなし方が進化し,ディスプレイの使い方が変化する」と説明した。当初,ユーザーは映像の臨場感に迫力を感じるものの,ディスプレイに映る映像全体にすべて反応しながらゲームを楽しむのは難しいという。しかし,回数を重ねるにつれて,ディスプレイの見方が変わって周囲の映像を広く把握することができるようになり,ゲームを有利に進められるようになる。さらにヘビー・ユーザーの中には,「周囲の映像をほとんど見ずに,レーダーだけを見てゲームを進められる人もいる」という。

 P.O.Dは,ユーザーの頭の後ろからプロジェクターと魚眼レンズを使って,楕円球型のドーム・スクリーンに映像を投影する仕組み。ユーザーの操縦に合わせて映像をリアルタイムに変更する必要があるため,映像は「強力な画像処理エンジンを使って処理している」という。左右2本の操作ペダルや操作レバー,スピーカーなどを搭載し,外形寸法は幅1870mm×奥行き1730mm×高さ2060mm。重さは380kgと巨大な装置だ。

ドーム・スクリーン型ディスプレイは一時的にお蔵入りに

 大久保氏は,P.O.Dの開発に関するこぼれ話も披露した。P.O.Dは,2001年に「第39回アミューズメントマシンショー」に参考出展した同様の装置「O.R.B.S.(Over Reality Booster System)」を進化させたもの。半球状のドーム・スクリーンを持つO.R.B.S.は,1999年に大久保氏が上司から渡された一枚のラフ・スケッチから開発が始まったという。それは,2m程度の半球ドーム・スクリーンに,プロジェクターが書いてある簡単な絵。当時は,プロジェクターが小型化されて家庭に入り始めた時代で,プロジェクターのアーケード・ゲームへの応用を検討するためのものだった。開発に当たっては,スクリーンでユーザーの回りを覆うことで臨場感を高めることに最も留意したという。

 だがO.R.B.Sは,体験者からの評判が非常に高かったものの,「装置が大きい」「高価」「適当なコンテンツがない」といった点で商用化につながらず,いったんはお蔵入りとなった。その時点では「『ガンダム』のキャラクターが使えたら,(商用化を)進めるのにね」といったことを冗談で言っていたが,2005年にナムコとバンダイが経営統合することになり,ガンダムをコンテンツとして入手できたため,O.R.B.Sを進化させたP.O.Dを商用化できたという。大久保氏は,「2005年の経営統合がなければ,おそらくO.R.B.Sは塩漬けだった。世に『新しい』といわれるものを出すには創意工夫や情熱などが必要だが,それに加えて運という要素もあると感じている」と話した。