図 Zr系金属ガラス箔とPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの重ね接合(図は大阪大接合研が提供)
図 Zr系金属ガラス箔とPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの重ね接合(図は大阪大接合研が提供)
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 大阪大学接合科学研究所と東北大学金属材料研究所は共同で,構成原子が不規則に並ぶ非晶質(アモルファス)構造を取っている金属ガラス箔をファイバーレーザーによって溶接することに成功した。通常の溶接法では金属ガラスの非晶質構造を維持できないのに対して,今回開発したファイバーレーザーを利用する溶接法は,金属ガラスの非晶質構造を保てるのが特徴。成功のポイントは,レーザーによって局部を瞬間的に照射して加熱し,一度溶融した接合部が周囲に熱を奪われて急速冷却され,再び非晶質構造に戻るように溶接条件を工夫したことだという。

 今回接合した試料は,高強度・高耐食性を特徴とする60Ni・15Nb・15Ti・10Zr(ニッケル・ニオブ・チタン・ジルコニウム,各数字は原子%)のNi系金属ガラス箔(厚さ30μm)とステンレス鋼SUS316箔の異種金属同士で,重ねシール溶接した。ファイバーレーザーは出力25~35Wで「レーザービームの直径を50μmと極細に絞って局部加熱を実現し,試料の固定用治具も工夫するなどの溶接条件を見い出した」(接合研の中田一博教授)という。また、Ni金属ガラス箔同士の接合にも成功している。

 Ni系金属ガラス箔は,高分子固体電解質型燃料電池(PEFC)のセパレター向けを目指して開発中の新素材である。Ni系金属ガラス箔そのものは薄いのでSUS316箔で裏打ちして機械的性質を確保するために溶接する。実際にセパレーターに適用するには,気密性と電気的な導電性を兼ね備えた接合が必要となるなどの条件を満たすように開発を進めている。

 接合研は55Zr・10Al・5Ni・30Cu(ジルコニウム・アルミニウム・ニッケル・銅,各数字は原子%)のZr系金属ガラス箔と透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムという異種材料同士の重ね接合にも成功した(図)。ファイバーレーザー光が透明なPETフィルムを透過して金属ガラス箔を照射し,局部加熱によって溶融し溶着したもの。

 接合研はファイバーレーザーによる接合法に加えて,電磁力による衝撃圧着法,摩擦撹拌(かくはん)接合法,超音波接合法による異種材料接合にも成功した。優れた物理的・機械的性質を持つ金属ガラスも他の材料製部品と接合できなければ,必要な構造を築けないので実用材料にはならない。このため,いろいろな接合法の開発が急務となっている。

 本研究は,東北大金研と東京工業大学応用セラミックス研究所,大阪大接合研の材料系3研究所が全国共同利用研究所連携プロジェクトとして「金属ガラス・無機材料接合開発共同研究プロジェクト」として実施した研究開発成果の一つである。この連携プロジェクトは平成17年度(2005年度)から5年間実施され,平成21年度で終了する計画。