ソニーの「KDL-32J5」の裏側の筐体を取り除いた様子。確認できる基板は2枚だけ。(写真:中村 宏)
ソニーの「KDL-32J5」の裏側の筐体を取り除いた様子。確認できる基板は2枚だけ。(写真:中村 宏)
[画像のクリックで拡大表示]
ソニーの「KDL-32J5」のバックライトは,U字型のCCFL4本(実質,8本)を光源としている。
ソニーの「KDL-32J5」のバックライトは,U字型のCCFL4本(実質,8本)を光源としている。
[画像のクリックで拡大表示]
ソニーの「KDL-32J5」に使われていた光学シート。
ソニーの「KDL-32J5」に使われていた光学シート。
[画像のクリックで拡大表示]

 基板が少ないなぁ――。

 省エネ型をうたうソニーの32型液晶テレビ,BRAVIA「KDL-32J5」の分解に取り掛かった日経エレクトロニクス分解班。早速,裏側の筐体を取り除いた。すると,確認できる基板が2枚しかない。分解に立ち会った国内テレビ・メーカーの技術者は,思わず声を上げた。

 一般的な液晶テレビの場合,少なくとも4枚の基板を確認できることが多い。すなわち,電源基板,インバータ回路基板,信号処理基板,タイミング・コントローラ回路基板である。

 これに対し,BRAVIAはなぜ2枚しかないのか。よくよく調べていくと,一つ目の理由が分かった。電源基板とインバータ回路基板が一体化されていたのだ。

 どうやらこれは,省エネのための工夫のようだ。電源基板とインバータ回路基板が別々の一般的な液晶テレビでは,家庭用コンセントから給電された交流電力を電源基板で直流に変換し,インバータ回路基板に供給する。インバータ回路基板では,電源基板から供給された直流を高周波の交流に変換して,冷陰極蛍光管(CCFL)を点灯させる。これに対し今回は,「家庭用コンセントから給電された交流電力をいったん直流に変換することなく,そのままCCFLの点灯に利用している」(分解に立ち会ったバックライト・メーカーの技術者)とみられる。CCFL点灯の過程で存在していたAC-DC変換とDC-AC変換をなくすことで,電力利用効率を高めたと推測できる(関連ブログ)。

タイミング・コントローラはどこに?

 なぜ確認できる基板が2枚しかないのか。さらに基板を眺めると,タイミング・コントローラ回路基板を確認できない。では,どこにあるのか。

 タイミング・コントローラ回路基板は液晶パネル・モジュールの側面に存在した。しかも,ソース・ドライバICと接続するインタフェース基板と一体化していた。「あまり見掛けない手法だ」と,テレビ・メーカーの技術者は漏らす。

 なぜ,このような手法を採ったのか。その疑問を残したまま,さらに分解を進めた。パネル・モジュールを分解し,光学シート類を取り除いていくと,CCFLが現れた。U字形のCCFLが4本(実質,8本)配置されている。バックライト・メーカーの技術者が「32型の場合はCCFLを10本使うことが多い」と指摘するように,ランプの本数が少ない。これもまた,省エネのための工夫と考えられる。

 ランプ本数が減れば消費電力は少なくなるが,その分,明るさを稼げなくなったり,配置するランプの間隔が大きくなるため画面に明暗のムラが目立つようになったりする。こうした課題には,どう対処しているのだろうか。

 バックライト・メーカーの技術者は,光学シート類を調べ始めた。「これは,かなり高価な部材を使っているなぁ」。技術者の分析によれば,高性能な光学シートを組み合わせることで,明るさの低下を防いでいるという(詳細は,日経エレクトロニクス2009年5月18日号の解説記事を参照)。

 ここで,技術者はこう続けた。「省エネの実現のため,高価な光学シートを使うなど,ある程度のコストアップは許容したのだろう。その分,消費電力に関係のない個所は,できるだけ簡素化しようとしている。タイミング・コントローラ回路基板をインタフェース基板と一体化させたのは,おそらく部品点数の削減や生産効率の向上によるコストダウンを狙ってのことだろう」。

 よくよく見ていくと,本来,タイミング・コントローラ回路基板が取り付けられる場所には,使われていないネジ穴が確認できる。タイミング・コントローラ回路基板を一体化させた一方で,板金は以前のものを流用している可能性が高い。これも,コストダウンの手法の一つとみられる。確認できる基板が2枚しか存在しなかったワケは,これで解明した。

――次回に続く――