文部科学大臣の塩谷立氏は,2009年5月12日に行われた閣議後の定例記者会見で,「メーカー,消費者,権利者などに色々な意見の食い違いがあり,(私的録画補償金)制度が成り立たないことを『問題』と答弁した」と釈明した。5月8日に行われた衆院文部科学委員会において,共産党の石井郁子氏からの質問に対し,塩谷文科相が「問題がある」と答弁してメーカーを批判したとされた一部報道を否定した。Blu-ray Disc録画機とその媒体を私的録画補償金制度の対象とする政令改正(いわゆるBlu-ray課金)の実施が閣議決定されたことを報告した後に,記者からの質問に答えたもの。

 共産党の石井氏の質問は,デジタル放送専用のDVD録画機を販売している東芝とパナソニックが,著作権法で定められた「私的録画補償金」の徴収への協力を拒否していることに関するもの。石井氏は質問の中で,パナソニックが私的録画補償金を管理する「私的録画補償金管理協会(SARVH)」に対し,デジタル放送専用DVD録画機について補償金の徴収に協力できないと通告したことを明らかにし,文化庁,塩谷文科相に見解を求めた。これに対して,塩谷文科相は「問題がある」と答弁したとされる。

 問題のDVD録画機はパナソニックが4月に発売した「DMR-XE1」で,地上デジタル・チューナのみを搭載し,アナログ放送を録画できない。パナソニックは製品を発表した2009年4月8日に,この製品に関して補償金の徴収に協力しないことをSARVHに文書で通告した。なお,同様のDVD録画機「RD-E303」「RD-G503」を2月に発売した東芝も既に,パナソニックと同様の見解をSARVHに伝えているという。

 著作権法では,デジタル録画機のユーザーに私的録画補償金を支払う義務を定めており,DVD録画機はその対象機器になっている。家電メーカーは機器の価格に補償金相当額を上乗せして販売することで,補償金の徴収に協力する義務がある。

 ただし,メーカーは以前より「地デジ放送はコピー制御が施されており,地デジ専用の録画機は補償金の支払い対象にならない」と主張している。例えば,家電メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)が,2009年2月13日に文化庁に提出した「『著作権法施行令の一部を改正する政令案』に対する意見」の中でこうした主張をしており,地デジ専用DVD録画機に関しても補償金の対象から除外すべきとしている(Tech-On!関連記事,JEITAが公開した意見へのリンク)。

 また,補償金の支払い義務者であるユーザーの中にも,地デジ専用録画機への補償金賦与に反対する意見があるため,仮に補償金の徴収に協力するとメーカーが,「消費者の財産権侵害に加担したとの追及をされるおそれがある」としている。今回の東芝やパナソニックも,こうした論拠で,補償金徴収への協力を拒否しているとみられる。

 SARVHとメーカーはこの件に関して現在話し合いを進めているとされる。文化庁は,「交渉が決裂したわけではないと聞いている。推移を見守りたい」とする。次回の交渉はBlu-ray課金が実施される5月22日以降に開かれるもようだ。