同社の常務取締役 経営戦略本部長の久保田健二氏
同社の常務取締役 経営戦略本部長の久保田健二氏
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 セイコーエプソンは,2008年度通期(2008年4月~2009年3月)の決算を発表した(発表資料)。売上高は対前年度比16.7%減の1兆1224億9700万円で,営業損益,純損益は共に前年度の黒字から赤字に転落した。営業損失は15億8800万円,純損失は1113億2200万円だった。現状の枠組みでは採算の改善が難しいと判断した半導体事業と中小型ディスプレイ事業などに関する構造改革費用や減損損失を計上したため,純損失が拡大した。

  主力の「情報関連機器事業」の売上高は,対前年度比14.7%減の7698億5000万円,営業利益は同63.8%減の301億4300万円。インクジェット方式やドット・マトリクス方式などのプリンター事業は,景気後退による販売数量の減少や円高が影響して,前年度と比べて大幅な減収だった。インクジェット・プリンターの低価格品の構成比が上昇したことも影響している。液晶プロジェクターは販売台数が増加したものの,価格下落や円高の影響を受けた。

 「電子デバイス事業」はディスプレイ,水晶デバイス,半導体共に売上高が大幅に減ったため,事業全体の売上高も落ち込み,対前年度比21.1%減の3116億2600万円だった。営業損失は前年度より拡大し,182億4900万円だった。水晶デバイス事業と半導体事業の採算が急速に悪化したことが響いたという。水晶デバイス事業が不振だったのは,携帯電話機やデジタル・カメラ,デジタル家電機器において,急激な生産調整があったため。電子デバイスの工場稼働率は,直前期に続いて低水準が続いているという。

 同社の常務取締役 経営戦略本部長の久保田健二氏は,市場の回復の手ごたえについて「残念ながら,現時点では『ない』といわざるを得ない。世界市場では,用途の豊富な水晶デバイスなどに一部上向きの兆しがあるといったことも聞いているが,当社の事業に影響が及んでいるという実感はない」と話した。

 2009年度(2009年4月~2010年3月)の業績予想は,売上高が対前年度比8.2%減の1兆300億円,営業利益が30億円,純損失が60億円となる見通し。営業損益と純損益は,前年度からそれぞれ45億円と1053億円改善する見込みである。

プリンター,プロジェクター,水晶デバイスなどに経営資源を集中

 経営環境の悪化を受けて,同社は2009年3月に,事業構造の転換などを盛り込んだ長期的な経営方針を策定した。今後は,成長分野・重点分野に経営資源を集中し,売り上げの増加につなげるという。同社が成長分野と位置付けるのは,「プリンター事業」,「プロジェクター事業」,「水晶・センサー事業」。プリンター事業では,マイクロピエゾテクノロジーをコア技術としたインクジェット・プリンターを開発するほか,新興市場向けの商品の拡充や環境配慮型の商品の市場投入を行う。プロジェクター事業では,高温多結晶Si TFT液晶を使った高光束プロジェクター分野などを強化する。水晶・センサー事業では,エプソントヨコムの完全子会社化による経営スピードの向上とともに,さらなる効率化を図る。その後,半導体をはじめとするグループ内の技術との融合を図り,センシング・デバイスやその応用製品の充実を図るという。

 収益化が困難な中小型ディスプレイ事業と半導体事業については,国内の拠点の集約化や事業規模の見直し,成長分野への人員の再配置などによって,事業の効率化を進めるとする。