LEDや有機ELを利用した照明が注目を集めている。3月3~6日に東京ビッグサイトで開かれた照明技術や照明器具の展示会「ライティング・フェア 2009」でも,展示品の大半がLEDや有機EL照明が占めていた(同展示会の関連記事)。

 LEDや有機EL照明の現状と課題,今後の開発の方向性について,パナソニック電工 先行技術開発研究所 技監(東京農工大学客員教授,大阪大学特任教授)の菰田 卓哉(こもだ・たくや)氏に聞いた。(聞き手は安保秀雄=編集委員)

問 LEDや有機EL照明の現状はどうなっているのでしょうか。

菰田 卓哉(こもだ・たくや)氏
菰田 卓哉(こもだ・たくや)氏

菰田氏 30年ほど照明分野の研究開発を行ってきましたが,今年の「ライティング・フェア」は,照明が変革期であることを象徴するものでした。今までの照明の代表である,白熱灯や蛍光灯関連の展示がほとんどなかったからです。ほとんどの照明メーカーはもちろん,今まで照明とあまり関係のなかった企業も,LED照明にどんどん参入していました。有機ELについても,当社や山形の有機エレクトロニクス研究所,ルミオテック,オランダRoyal Philips Electronics社,NECライティング,ロームなどが参考展示をしました。おそらく,2011年ごろには有機EL照明が市場に出てくるのではないかと思います。

 これまでは,白熱電球や蛍光灯に代わる照明デバイスとして本当に使えるものになりうるのかということを実証してきました。これから,「コスト・パフォーマンスも含めてオフィスや家庭,社会で使えるもの」に育てていく段階に到達したと思います。

問 今後,LED照明と有機EL照明はどのように発展するのでしょうか。

菰田氏 LED照明と有機EL照明を合わせて新世代照明と呼ぶことにしましょう。最近,新世代照明の進むべき方向性が業界全体ではっきりと共有されるようになってきたと思います。

 新世代照明の地位が確固としたものになったことで,新世代照明とは何かを落ち着いて見つめ直せるようになりました。LEDや有機ELの特徴を生かした照明を,業界全体で考えていくフェーズに入ったと思っています。

 照明は人が暮らしているところに必ずあるものです。宇宙から地球の夜の部分を見ると,照明を利用している場所が長期に渡って増えてきたことが分かります。それでも地球全体から見ればほんの一部であり,これからも照明を利用するところは増えていくでしょう。そのときに,照明のエネルギー消費量が増大することは避けなければなりません。照明が消費している電力エネルギー量は世界で2600テラWh(2005年)といわれており,世界全体の総電力エネルギー量の1/5にもなります。

 新世代照明を省エネに結びつけるためには,われわれはもっと知恵を絞らなければなりません。例えば今後,太陽電池や燃料電池による分散電源と蓄電池を利用するケースが増えてくると思います。太陽電池から交流に変換して蛍光灯に給電するよりも,直流のまま新世代照明に給電すれば効率の高い省エネ・システムになります(図1)。

日経エレクトロニクス2008年12月29日号,特集「直流給電省エネの切り札に」から引用
図1 太陽電池と蓄電池,LED照明を使えば,変換ロスが小さい
日経エレクトロニクス2008年12月29日号,特集「直流給電省エネの切り札に」から引用。
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 ただし現在,家庭などの配電盤や電気製品の一般的な電源は交流です。ですから,効率のよい新世代照明システムを作ろうとすると,直流と交流を給電できるハイブリッド給電盤などが必要になります。また,周囲の明るさや利用者の動きに応じたきめ細かな照明の制御を実施するかもしれません。家庭やオフィス,電力系統全体を考慮しながら今後の目標となる姿の青写真を描いておき,徐々にその目標に向かっていくようにインテグレーションとプロジェクト・マネジメントを社会全体で行っていくことが必要になります。

 これは途方もないことのように見えますが,実現するまでに大きな技術的なブレークスルーが必須というわけではありません。発光効率などの向上によって,経済原理にのっとった新世代照明普及のビジネス・シナリオが描けるようになったからです。

 もちろん現時点では,新世代照明デバイスのコストは従来の照明デバイスに比べてまだ高いのですが,すでにLED照明については,コンビニエンス・ストアやホテルのロビーなど常時点灯させるところで採算が取りやすいという試算結果が出ています。電気代と電球代,器具代の合計(初期費用+ランニング費用)を見ると,白熱灯ダウンライト器具との比較だと4年余り,電球型蛍光灯ダウンライト器具と比較しても8年余りで償却ができ,その後はお得,という試算が出ています。このように,LED照明は白熱灯や電球型蛍光灯の場合よりもトータル・コストが低くなると算定されていますし,今後,量産効果によって採算が合う用途は確実に増えてくると思います。

 環境調和志向を追い風に,新しい使われ方や斬新なデザイン性の提案もあります。例えば,有機EL照明を利用すれば,透明な窓ガラスを一瞬のうちに照明装置にすることが可能です。従来は実現が難しかった用途や新世代照明独特の雰囲気をかもし出せる照明も出てきているので,経済性だけでなく,暮らしを豊かにすることにも貢献できると思います。

 しっかりとした方針を固め,地道に仕事を進めていけば必ず目標を達成できます。新世代照明が技術的に確立し,社会的なニーズも強まっている今こそ,「産」はもちろん「官」や「学」の力を結集して,明確なシナリオに沿って着実に開発を進めていくべきでしょう。

製造技術を高め足腰を鍛える