試作した人体通信簡易心電計
試作した人体通信簡易心電計
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 無線製品の研究/開発を行うアンプレットは,人体通信の動作原理や部品を使って心電情報を計測する装置「人体通信簡易心電計」を試作した。椅子の上に人が座り両手を左右の電極(写真参照)にのせることで,心臓の動きを計測しそのデータをインターネット経由で遠隔地へ伝送する。同社はアルプス電気と共同で,人体通信技術の遠隔医療やヘルスケアへの応用を研究しているが,今回の研究はその一環。

 「この装置で,現在の心電計を置き換えるつもりはない。あくまでも予防医療用として位置付けており,病気の兆候を手軽にとらえられる装置と考えている。医学的に利用できる情報が得られるか,今後,医学系大学の先生方のアドバイスをいただき,実験をしながら模索していきたい」とアンプレット 代表取締役社長(東京電機大学 講師)の根日屋英之氏は述べる。

 これまで人体通信の応用は,鍵の施錠・開錠や電子定期券,ヘッドセット,ウエアラブル機器間のデータ伝送など,人体を伝送路として通信を行う「通信機能」に着目するものがほとんどだった。アンプレットが今回試作した簡易心電計は,人体通信技術を「センサ機能/計測機能」に応用したものだ。「センサ機能/計測機能」と「通信機能」は併用できるので,「センサと通信機器を一体化した遠隔医療用などの装置も作りやすい」(根日屋氏)という。

 英バーミンガム大学教授のPeter S. Hall氏は,人体通信の医療応用における通信形態を次の三つに分類した。(1)ウエアラブル機器などの同一人体上においた装置間の「On-Body通信」,(2)人体上においた人体通信装置と人体と分離された場所に設置した通信機器間の「Off-Body通信」,(3)人体内部と外部間の「In-Body通信」である。

 今回の心電計は,この分類では(3)に相当する。ただし,通常のIn-Body通信は,体内に埋め込んだ人体通信機器の情報を,人体を介して外部に取り出すことを想定している場合が多い。今回は,「人体そのものを人体通信の送信機ととらえている」(根日屋氏)点が異なるようだ。「心電計以外に脳波計や脈動計なども,人体が電気信号を自ら発振してくれる人体通信送信機と考えることができる」(同氏)。

 人体を送信機などと見る考え方は,以前からあったという。「人体は体温という熱を持っており,ミリ波を放射している。そのミリ波によって人の出入りを検出するセキュリティ用のミリ波パッシブ・レーダを開発したことがある。通常,レーダというと電波をぶつけて,反射してくる電波を受けるアクティブ・レーダを思い浮かべることが多い。実は電波をぶつけなくても人体がミリ波の電波を出しているので,近距離であれば受信機だけで相手の存在や形状までも確認できる。これをパッシブ・レーダという。同様に低い周波数でも人体が何かの生体情報を放出しているのではないか,と考えたのが人体通信の医療応用を考え始めたきっかけだった。そして,いろいろ調査をしてみると,心電計や脳波計も人体通信と非常に類似している技術であることがわかってきた」(根日屋氏).

 「人体通信の用途は通信に限らない。人体通信とは何か,何に応用できるかは柔軟に考えたほうがよいと思う」と同氏は指摘する(関連記事 市場開拓が進む人体通信,開発のカギは「人体を知ること」)。なお,この簡易心電計では実際に波形が観測されているもののまだ実験段階であり,今後,性能向上などを目指す。「ハードウエア面でも電極や装置に適した回路などを技術的に研究し,伝播経路を解析する必要がある」(根日屋氏)。

 なお同社は,今回の簡易心電計について2009年4月17日に開催する人体通信のセミナー「人体通信の最新技術動向とビジネス展開」で発表する。



【お知らせ】セミナー「新市場を創るワイヤレス通信応用の開発技術
人体通信と既存ワイヤレス通信との併用や,人体通信とセンシング技術との融合による新しい応用について解説。2009年10月22日(木)開催。